第601話

栗原愛南は斎藤お爺さんの前まで大股で歩み寄り、真っ直ぐに彼を見つめた。「遅れてはいませんよね？」

約束の時間は朝の10時だった。

斎藤お爺さんは言った。「いいえ」

栗原愛南は頷いた。

斎藤お爺さんは彼女を家の中へと案内し、森川北翔と川内美玲は二人の後ろについて行った。

森川北翔に関しては誰も制止しなかったが、川内美玲が入ろうとすると南條真美に止められた。「この方は特務機関の人間ですが、斎藤お爺さん、私たちの取引に彼女を同席させても大丈夫なのですか？」

斎藤お爺さんが何か言う前に、栗原愛南が即座に反論した。「今日はDNA鑑定をしに来ただけじゃないですか？違法なことじゃないでしょう？なぜ彼女が立ち会えないの？それとも、あなたが何か違法な取引をしようとしているから、彼女がいるのを恐れているの？」

この反論に、南條真美は言葉に詰まった。

しかし、すぐに冷笑を浮かべた。「今まではクールな態度だったのに、まさかこんなに口が立つとは！でも今日の斎藤家の件に関して、私は彼女を入れさせません！」

川内美玲は手を振った。「あなたたち、彼女を止めなさい！」

その言葉と共に、すぐに数人のボディーガードが駆け寄り、川内美玲の前に立ちはだかった。

そのボディーガードたちは周りの斎藤家の警備員たちとは明らかに違い、全員が武術の心得がある者たちだった。

川内美玲は眉をひそめ、一歩後ずさりした。

南條真美は嘲笑いながら彼女を見た。「川内お爺様があなたのお爺さんだと聞いていますが？川内家の人間で、特務機関を統括しているのなら、身体能力は相当なものでしょうね？」

川内美玲は顎を引き締めた。

父の世代から特務機関の運営を引き継ぐ気はなかったため、彼女は武術の訓練を受けていなかった。

対策を考えている時、栗原愛南が突然近づいてきて、口を開いた。「斎藤家の門番はあなたが担当しているの？」

彼女は直接斎藤お爺さんに向かって言った。「川内さんは私の友人です。斎藤お爺さん、本当に彼女を入れないのですか？」

その言葉には脅しの意味が含まれていた。

斎藤お爺さんは一瞬躊躇した。