第582話

八木珊夏は信じられない様子で一歩後ずさり、鏡を呆然と見つめた。彼女は馬鹿ではない。狐の手下として、彼女はこのような仕事を数多くこなしてきた。

部屋に入った時点で、隠しカメラを設置できる場所がないか確認していた。

さらに、この期間の栗原家での付き合いを通じて、栗原家の人々は、たとえ栗原井池が京都の大魔王と呼ばれていても、実際には善良な人々だということを知っていた。このような家庭では、客室に隠しカメラを設置するはずがない。

だからこそ、彼女は橋本南にあのような言葉を放つことができた。

彼女は唾を飲み込み、突然一歩前に出て、栗原光雄の腕を掴んだ。「栗原お兄さん、説明させて...」

「調べて!」

その時、か細い声が聞こえてきた。二人が振り向くと、栗原愛南が全身濡れた橋本南を支えながら歩いてきて、二人の側に来た。