第621話

川内美玲の表情には怒りが浮かび、普段の冷たい顔つきが一変した。藤原夏菜子を睨みつけ、箒を直接その腕に打ち付けた。

藤原夏菜子はすぐさまその箒を掴んだ。

冷たい目で川内美玲を見つめ、反撃しようとしたが、相手が女性だと気付くと、ただ箒を強く奪い取って地面に投げ捨てた。

川内美玲は押され、数歩後ろに下がった。

よろめきながらも、栗原愛南は動かなかった。先ほどの藤原夏菜子が力を抑えていたのを見ていたからだ。

普段は川内美玲を嘲笑っているこの男も、結局は分別をわきまえているのだ。

しかしその次の瞬間……

川内美玲の側近、つまり川内側にいる狐のスパイである広石一朗が前に出て川内美玲を支えようとしたが、まるで支えきれなかったかのように見せかけた。

彼は大声で叫んだ。「川内さん、危ない!」

次の瞬間、彼と川内美玲は地面に倒れた。

彼は川内美玲の下敷きになり、自分の体をクッションにして、地面で擦り傷を負った痛みも気にせず、心配そうに川内美玲を見つめた。「川内さん、大丈夫ですか?」

川内美玲は困惑した様子で彼を一瞥し、すぐに口を開いた。「私は大丈夫よ。あなたこそ大丈夫?」

広石一朗は自分の腕を押さえながら、怒りの目で藤原夏菜子を見つめた。「藤原、お前たちは度が過ぎる!お爺様がまだ判決を下していないのに、川内お嬢様にこんなことをするなんて!お前たちの心の中には、最初からお爺様なんて眼中にないんだろう!」

藤原夏菜子は眉をひそめ、自分の手を見つめたが、疑いを持つことはなく、ただ冷笑して言った。「俺はまだ力も入れてないのに、彼女は倒れた。川内家は今の世代になって本当にダメになったな。まだ特務機関を統率しようとでも思ってるのか?まさか、この華奢な川内お嬢様に任せるつもりじゃないだろうな?」

特務機関の各世代の理事長は、実は厳しい選抜を経て選ばれるのだ。

川内家は代々理事長の座にいたが、それも特務機関の全員を従わせてこそ得られた地位だった。

川内お爺様は当時、特務機関内で武術の面でも無敵だった。

川内亮文の世代では、彼が武術を学ぶことを望まず、さらに川内お爺様が意図的に藤原部長を育てようとしていたため、川内亮文はそのまま法医学の道を選んだ。

藤原部長は今ではビール腹を抱え、表面上は老獪そうに笑みを浮かべながら、川内お爺様に取って代わろうと画策している……