川内美玲は涙さえも流せないほど混乱していた。
彼女は非常に困惑した状態にあり、お爺さんの行動が信じられず、理解できないとさえ感じていた。
栗原愛南は彼女の様子を見て、思わず尋ねた。「お金を受け取ったの?証拠はあるの?」
川内美玲は唇を噛んで、「あります。全ての取引記録が見つかりました。巧妙に隠されていましたが、最終的な総額は数十億に上ります……」
彼女は一瞬止まって、「米ドルです」と付け加えた。
栗原愛南は思わず驚いた。確かにその金額は大きすぎた。
しかし川内家自体が裕福な家庭で、昔から受け継がれてきた資産もあり、名門と言えるほどだった。これほどの金額でなければ、お爺様も心を動かされなかったのかもしれない。
川内美玲は唇を噛んで言った。「あれほどのお金で何をするつもりだったの?私も父も、お金を使う場所なんてないし、そのお金を見たこともありません。でもそのお金は確かに、彼の口座にあるんです……」
川内美玲は涙を拭って言った。「わからないの、愛南。理解できないの。お爺さんは本当にスパイなの?」
栗原愛南は彼女の肩を叩いた。「まずはお爺様に会ってみましょう」
川内美玲は啜り泣きながら、頷いた。
栗原愛南が川内美玲と一緒に中に入ろうとしたとき、森川北翔が近づいてきた。彼は先ほどの二人の会話を聞いていたが、突然口を開いた。「愛南、話があるんだ」
栗原愛南はすぐに驚いて、「何?」と聞いた。
森川北翔は彼女の耳元に近づき、何かを小声で言った。それを聞いた栗原愛南は少し驚き、彼を見つめた。
森川北翔は彼女に頷いた。
栗原愛南は深く息を吸って、「わかりました」と言った。
そう言うと、彼女は川内美玲と一緒に特務機関に入った。
入るなり、栗原愛南は特務機関の雰囲気が変わっていることに気づいた。以前は川内お爺様の部下も、藤原家の父子の部下も、川内美玲に対してある程度の敬意を持っていた。
結局のところ、川内お爺様は長年特務機関を統括してきた威厳のある人物だった。
しかし今、皆が川内美玲を見る目には軽蔑の色が浮かんでいた。何か言いたそうな人もいたが、栗原愛南を見ると、言葉を飲み込んだ。
皆の栗原愛南に対する態度は明らかに違っていた。結局のところ、彼女は特務機関の名誉を守った山田家の大先輩だった。