森川元碩は広石秋子を見つめ、突然背筋が凍る思いがした。
広石秋子がおばあ様の前でこれほど上手く演技できるなら、自分の前でも演技をしているのではないだろうか?
しかし、すぐにその考えを打ち消した。
人は一日や二日、一ヶ月や一年は演技できるかもしれないが、二十五年も演技し続けることなどできるはずがない。
森川麻理亜は今二十三歳で、彼らは二十五年前から一緒にいたのだ……
一体何を考えているんだ。
それに、自分が何も持っていないわけではない。
今だけでなく、将来、森川おばあ様が亡くなった後も、遺産は平等に分配されるはずだ。森川グループの株式一パーセントでさえ、数百億から数千億円の価値がある。
森川元碩はそこまで考えると、その場を離れた。
栗原愛南と森川辰は会社の将来の発展について議論し、森川辰は本当に報告をするかのように、彼女のためにパワーポイントを作成した。
この真面目な様子は、大学時代によく似ていた……
栗原愛南は口元を緩めて微笑んだ。
傍らにいた森川北翔がそれを見て、瞳の奥が深くなった。
一方、広石秋子と森川麻理亜は森川おばあ様のためにブドウの皮を剥いていた。皮を剥いて種を取り除いてから、おばあ様に差し出すのだ。
森川おばあ様は心地よく世話を受けていた。
森川北翔は手近にあったお茶を取り、栗原愛南の前まで歩み寄った。「お茶を飲みなさい」
彼は二人の会話を遮った。
栗原愛南はお茶を受け取り、一口飲んでから森川北翔に返した。
森川北翔はそのまま栗原愛南の隣に座り、とても近い距離で一緒に森川辰が作ったパワーポイントを見始めた。
栗原愛南は耳元がくすぐったく感じ、顔を向けると頬が森川北翔の顔に触れた。その時になって初めて、森川北翔がこんなに近くにいることに気付いた。
栗原愛南が少し離れようとすると、腰を森川北翔にぐっと掴まれ、さらに近くに引き寄せられた。
栗原愛南は「……」
森川辰はそれを見て、目に苦笑いの色が浮かび、顔を上げると呼び方を変えた。「伯母さん、このプランはいかがでしょうか?」
この呼び方に、森川北翔は非常に満足した。
栗原愛南が口を開く前に、彼は資料の一箇所を指さした。「ここと、ここと、それとここ、この三箇所は……」
森川北翔は簡潔な言葉で、このパワーポイントの不備を指摘した。