第739話

相手は眉をひそめ、低い声で言った。「森川さん、家を早めに抵当に入れて手放すと、安値になるかもしれませんが、よろしいですか?」

森川麻理亜は表情を冷たくした。「はい、構いません」

相手はさらに尋ねた。「どの国へ行かれるんですか?」

「どこでもいいです。早く離れられるところならどこでも!」

相手は言った。「分かりました。手続きが済みましたらご連絡いたします」

「はい」

森川麻理亜がそう答えると、相手は権利書を持って立ち去った。

彼女が振り向くと、小島保史が後ろに立っているのを見て、驚いて胸に手を当てた。「どうしてここにいるの?」

小島保史は眉をひそめて彼女を上から下まで見渡し、去っていく相手の方を見て、躊躇いながら尋ねた。「何をしているんだ?」

森川麻理亜はすぐに目を伏せた。「何もしてないわ。どうしてここに?」