第756章

しかし、小島早絵は斎藤愛南の方を見つめた。「高橋修には事情があるの。彼と彼女は愛し合っているわけじゃなくて、家同士が決めた幼馴染の婚約者なの……」

栗原愛南は「……」

彼女は遠くを見つめた。鈴木万由香と一緒にいる高橋修を。二人は談笑し、鈴木万由香は高橋修の前で優しく振る舞っていたが、それは幼馴染らしからぬ態度だった。

栗原愛南は思わず目を伏せた。

幼馴染の婚約者なんて、栗原愛南から見れば、この鈴木万由香と高橋修は全然親しくないはずだ。でなければ、高橋修が金持ちの息子ではないことを知らないはずがない。

この鈴木万由香の目つきは打算的で、明らかにパパ活女子だった。

彼女は皆の会話を聞いて、徐々に事情を理解し始めていた。

小島早絵は高橋修に助けられた後、彼に恋をした。

高橋修もそれをきっかけに裕福な家庭とつながりを持てたが、小島早絵と付き合っている時に、鈴木万由香の存在が発覚した。

彼は思い切って小島早絵を欺き、鈴木万由香は幼馴染で、裏切れないと言った。

責任感のある人物像を作り上げたのだ。

それ以降、堂々と鈴木万由香を連れ回すようになった。

高橋修は小島早絵のような御曹司の性格をよく理解していた。恵まれた環境で育ったため、道徳心があり、自分が第三者だと知った途端、鈴木万由香に対して罪悪感を抱き、もう彼女の前で権利を主張することはなくなった。

また、高橋修の洗脳と先ほどのような誘惑のおかげで、小島早絵は高橋修を忘れられず、そのため二人の生活費を出し続けていた。

しかし、この愚かな小島家のお嬢様は、全く気付いていなかった。

むしろ、自分が贖罪していると思っているのだ!

小島早絵はどれほど洗脳されているのだろう?

こんなことにも気付かないなんて?

彼女は完全に呆れてしまった……

隣の森川北翔もしばらく沈黙し、もう何も言う気にならなかった。

小島愛絵を見ると……おそらくこのことを知っていたが、小島早絵が家で騒ぎを起こしたに違いなく、小島愛絵にも手の打ちようがなかったのだろう。

さらに先ほど小島早絵が言った、貯金は全て兄に投資させられたという話を思い出すと、小島愛絵はこの問題に早くから気付いていて、そのため相手の資金源を断つという方法を取ったのだろうか?

これは確かに高橋修の急所を突いた。