第798章

「光雄、あなたは私を愛したことがあるの?」

橋本南の声には、わずかな震えが含まれていた。

栗原光雄は少し驚いた表情を見せた。こんな時に、橋本南がこんな質問をするとは思わなかった。

しかし彼女は突然、あの日のことを思い出した。森川家のパーティーで、小島保史も森川麻理亜にこのように尋ねていたような…

だから男というのは、本当に死ぬまで少年のままなのだろうか?

橋本南は唇の端を上げ、苦笑いした。「あなたとの出会いは、確かに私の計算通りだった。言い訳はできない。愛については…嘘はつきたくないわ。」

橋本南はそう言うと、突然黙り込んだ。

しかし栗原光雄に、あるいはその場にいる誰にでも伝わったのは、彼女の言葉の続きは「嘘はつきたくない、あなたを愛していない」ということだろう。

なぜなら、彼を愛しているなら、嘘をつく必要はないのだから。

栗原光雄は案の定、苦笑いした。「君は僕を愛していないのに、どうして選ばせようとするんだ?」

彼は隣の栗原愛南を見て、続けた。「それに、栗原家の家訓では、兄弟姉妹は裏切ってはならないと何度も言ってきたはずだ。なのに南條家の女たちは、なぜ一人二人と理解できないんだ?」

彼は栗原愛南の側に歩み寄った。「橋本南、君が僕を愛していないことはさておき、たとえ君が僕を愛していて、僕も君に死ぬほど夢中だったとしても、君のために家族を裏切ることはない。」

「僕がここまで大きくなったのは、栗原家が育ててくれたからだ。今の僕がやりたいことをやれるのは、栗原家が与えてくれた自信があるからだ。君が僕を頼ってきたのも、栗原家を取り込みたかったからだろう。でも僕にとっての栗原家とは、会社でもなければ財産でもない。栗原家の人々、一人一人、全員のことだ。だから僕は決して、この家の誰一人として裏切ることはできない。」

彼の声は力強く、唇の端にはまだ苦笑いが残っていた。

橋本南はうなずいた。「わかったわ。」

彼女はまだ無表情のままだった。

そう言って栗原愛南を見た。「今日は私を捕まえるつもり?それとも何?どうやって罰するつもり?」

彼女は両手を上げた。「言っておくけど、私はかなり無能で、身体能力はあまり良くないわ。栗原家に入るにも身体検査を受けなければならなかったから、武器も持っていない。今ここで殺されても、抵抗する力はないわ。」