病院の匂いは、相変わらず鼻を刺激するものだった。天野奈々は冬島翼のアシスタントの助けを借りて病院に入った。彼女は一人きりで、アシスタントさえ連れていなかった。
雨野柔子の病室を見つけると、天野奈々は雨野柔子のアシスタントが扉の前に立っているのを見た。クラウンスターのショーの件で、この男が冬島翼の前で、彼女がジュエリーを足首につけたのは独断だと言ったのだ。
完全に責任を彼女に押し付けたのだ。
「来たのね」雨野柔子のアシスタントは傲慢に天野奈々を見下ろし、意図的に彼女を困らせた。「ちょっと待って、雨野さんはまだ休んでいるから」
天野奈々はバッグを両手で持ち、雨野柔子のアシスタントをまっすぐ見つめた。彼女の声は柔らかく、ゆっくりとしていた。「私の姓を知っていますか?」