墨野宙はもう話さず、前方に視線を戻した。一方、天野奈々は彼の右耳たぶに目を向けた。黒いダイヤモンドのような黒子が、まるで生まれつきのイヤリングのように、彼に邪悪で危険な雰囲気を添えていた。
「そんなに見つめるということは、キスを求めているのか?抱きしめてほしいのか?それとも…」
天野奈々は緊張を抑えながら、自ら手を伸ばして墨野宙の腕に絡みつき、彼の熱い視線を避けた。「新居に行く前に、別の場所に連れて行ってもらえませんか?」
「そうしたら、今夜は昨夜の未完の事を続けられるのかな?ん?」
墨野宙は軽薄に尋ねた。天野奈々は隠しきれない緊張を感じていた。昨夜のような勇気を出せるかどうか分からなかったからだ。墨野宙は強制せず、何も言わなかった。ただ彼女が腕にしがみつくのを許し、夜の闇の中で口角をかすかに上げた。