エレベーターが直接墨野宙のオフィスにつながっているので、天野奈々は海輝の従業員に会う心配をする必要がありませんでした。エレベーターを出るとすぐに墨野宙の広いオフィスが見え、天野奈々の気持ちもずいぶんリラックスしました。
自宅のスペイン宮廷風の内装とは全く異なり、墨野宙のオフィスは極めてシンプルで、すべて角張った金属の調度品でした。これは彼の仕事における効率性、簡潔さ、そして威厳を示し、思わず敬意を抱かせるものでした。
今、デスクの前の男性は書類に全神経を集中して署名していました。右耳たぶの黒子が、彼の落ち着いた雰囲気に少し邪気を加えていました。真剣な男性が最もハンサムだと言われますが、天野奈々は遠くに立ったまま少し呆然としていました。墨野宙が顔を上げて彼女に気づくまで…
「ソファに座って待っていて」墨野宙は優しく言い、天野奈々の後ろにいる陸野徹に指示しました。「イングリッシュティーを2杯と軽食を用意して。それと薄い毛布も持ってきて」
「かしこまりました、社長」
天野奈々は墨野宙が素早く書類に署名を終え、立ち上がって彼女の隣に座るのを見ていました。「どうして中村さんを連れてこなかったの?」
「彼女は邪魔したくないって言ったわ」
陸野徹が軽食をオフィスに持ってくると、墨野宙は薄い毛布を受け取り、直接天野奈々の両足にかけました。「エアコンが強めだから」
天野奈々は微笑んで、墨野宙を軽く押しました。「あなたは仕事に戻って。私の景色鑑賞の邪魔をしないで」
「景色?」
「仕事中のあなたよ…」
墨野宙は仕方なく立ち上がり、再びデスクに戻って忙しく働き始めました。一方、天野奈々はしばらくすると疲れてソファに寄りかかって眠ってしまいました。墨野宙は立ち上がって彼女の体を横たえ、クッションと薄い毛布をかけました。仕事に付き合うと言っていたのに、CMの撮影でこんなに疲れてしまって…
墨野宙のオフィスには常に人が出入りしていました。陸野徹だけでなく、秘書や他の幹部も。そして彼らは皆、入ってくる時と出ていく時では表情が全く違っていました。
入ってくる時は平静でしたが、出ていく時には驚きのあまり目を見開いていました。
大ボスにはもう恋人がいるのか!
大ボスのオフィスにいる美女は誰だ?