第235章 彼女の歌は私だけが聴ける

橋本ことは、天野奈々が怒ったり取り乱したりしないまでも、少なくとも心の中では傷つくだろうと思っていた。しかし……天野奈々はただ目を閉じて、そして橋本ことに言った。「あなたの言葉は私には効き目がないわ」

自制心について言えば、自分の夫以外に、天野奈々はまだ自分より優れた人物を見たことがなかった。

敵に動揺させられて相手の罠にはまるようなことは、彼女にはあり得なかった。

橋本ことは軽蔑的に笑い、突然、自分が天野奈々を過小評価していたことに気づいた。

「ほら……また賞をもらったわね。世界十大美胸賞よ」

橋本ことは3、4個の賞を受賞したが、どれも重要なものではなかった。重要な賞は深水藍華たちの手中にあったからだ。1位のモデルは海輝のもう一人の国宝級人物で、スーパーモデルであるだけでなく、若くして自身のファッションブランドを立ち上げ、常にファッション界のトップに君臨し、このような場にはめったに姿を見せない。

深水藍華でさえ彼女に会う機会は少ない……

2位はスターキングの人物で、もちろん、深水藍華は3位だった。

このランキングは、これらのモデルたちの収入力が非常に驚異的であることを示しており、国内では全てトップクラスだった。

天野奈々は静かに客席に座り、深水藍華が表彰台に上がり、トロフィーを抱える様子を見ながら、心の中で彼女のために喜んでいた。そして表彰台に立つ深水藍華も、スピーチの際に天野奈々のいる方向に視線を向け、二人の目が合うと、微笑みだけで全てが語られた。

「皆さんご存知の通り、数日前、私は崩壊の瀬戸際にいました。でも、ある人が私を破滅の道から引き戻してくれたんです。その人こそ、客席にいる天野奈々さんです」深水藍華が話している時、突然……涙が目から零れ落ちた。

「誰かに心を温められた経験が皆さんにあるかどうかわかりませんが、天野奈々さんに出会う前の私にはありませんでした。長い暗黒の日々の中で、私の頭の中で最も多く考えていた言葯は『死』でした。でも……天野奈々さんは私に生きる力をくれました。彼女は私に、もう少し頑張ってと言ってくれたんです」

「頑張ったからこそ、私は再びこの表彰台に立つことができました」