「海輝を手に入れるのか……」村上隼人は軽く鼻で笑い、そして相手に答えた。「認めたくはないが、墨野宙は非常に優秀なリーダーだ。この点は誰も否定できない。そして、墨野宙の存在によって、少なくとも芸能界の悪習を正すことができる。しかし、墨野宙がいなくなれば、海輝は……単なる芸能事務所に過ぎなくなる。」
「芸能界というのは、元々名声と利益を追求するものだ。君だって名誉と利益のために天野奈々を追いかけ続けているんじゃないのか?」相手は深く鋭く村上隼人の偽善を指摘した。「私が求める芸能界は、繁栄であり、競争だ。墨野宙のような、誰もが本分を守るようなものではない。」
「それに、墨野宙が本当に公平無私だと思っているのか?少なくとも天野奈々のことに関しては、彼はもはや昔の墨野宙ではない。」
「考えさせてください。」村上隼人は小切手を返した。「結局のところ、墨野宙と対立することになるので、よく考える必要がある。」
「好きにしろ。」相手は全く気にしない様子で言った。「ただし、私が海輝を手に入れた日には、東京には君の居場所がなくなると言っておくよ。」
村上隼人は馬鹿ではない。もちろん一言二言で簡単に相手の陣営に入るようなことはしない。しかし今は、天野奈々に対抗するのに最適なタイミングではない。
なぜなら、彼女は今や墨野宙の女という烙印を押されているからだ。
そして海輝はちょうど騒動を収めたばかりだ。
……
リムジンがハイアットレジデンスに到着したのは、すでに真夜中だった。夫婦二人は黙ったまま家に入った。天野奈々が電気をつけた瞬間、墨野宙は手を伸ばして彼女を抱きしめ、そして彼女の耳元でこう言った。「このまましばらく抱かせてくれ。」
天野奈々は何も言わなかった。ただ、時々墨野宙が千斤の重荷を背負った肩が、重すぎて彼女の心が痛むのを感じるだけだった。
スターキングを買収しても、彼は喜びを感じなかった。なぜなら、これは元々墨野宙の野心ではなかったからだ。
「私の前では、あなたも弱さを見せていいのよ。」天野奈々は優しく墨野宙の背中をさすった。「あなたが私を必要とするとき、私もあなたの最も頼りになる肩になれるわ。」