第363章 結婚はとっくに済んでいた

「泣きたいなら、泣けばいいよ」帰り道で、墨野宙は運転しながら、自分の肩にもたれかかっている天野奈々に言った。「僕が遅すぎたせいで、君に余計な辛い思いをさせてしまった」

天野奈々は抑えきれずに啜り泣き、それでも必死に耐えているのが分かった。「私が勝手に行ったのよ。あなたに何の関係があるの?どうしていつも全部自分のせいにするの?」

「君を守れなかったのは、全て僕の責任だ」墨野宙は自責の念を込めて言った。「これからは、君は墨野宙の妻であって、誰かの孫でもないし、あの家族とも何の関係もない」

「うん」天野奈々は頷いたが、それでも涙が止まらなかった。

肉親からの傷は、最も無力で、最も癒えにくい。

選択の余地がないから。

「もう泣かないで、君が泣くと僕も辛いんだ」

泣くのも違う、泣かないのも違う、天野奈々は体を起こし、少し落ち着いてから言った。「撮影現場に連れて行って。今日クランクアップの予定だから、私個人の事情で撮影スケジュールを遅らせたくないの」