「ねえ、VIP席の最前列に座ってる二人、どこかで見たことない?」
「どこ?」
ファンたちが辺りを見回し始めた。
「普通の人が夜にサングラスと帽子なんてかぶるわけないでしょ?」
「あの脚を見て...天野奈々じゃない?」
誰かが推測したが、距離が遠すぎて確信が持てなかった。「墨野社長も一緒みたい...夫婦で来てるのかな。」
「まさか、こんな小規模な式典に、芸能界の大物と有名モデルが来るわけないでしょ?」
「私の見間違いかもしれないね。」
……
そして、授賞式が正式に始まった。司会者の巧みな話術に会場は笑いに包まれ、ゴールデンソング賞、ポップミュージックトップ10、男女シングルチャンピオンなど、すべての見どころは後半に控えていた。
歌手も俳優もモデルも、違いはない。実際、様々な場所に顔を出し、観客に覚えてもらい、好感を持ってもらう必要がある。歌手の道も、バックコーラスや小規模な場所から始まるものだ。先ほどファンが言ったように、この授賞式は絶対的な権威性や認知度はなく、墨野宙が注目するようなものではない。
しかし、このステージは多くの新人の夢を乗せているのだ……
「K&G、もうすぐ出番よ。」マネージャーが楽屋のドアをノックして告げた。
「はい。」メンバーたちは濃いメイクを施し、リベットのついたかっこいいジャケットを着ていた。激しいダンスと歌があるため、三人ともとてもファッショナブルな装いだった。
対照的に、天野剛はずっと質素で、バラードを歌うからだった。
三人は天野剛を一瞥して楽屋を出て行った。天野剛は全く警戒心を持たず、ただひたすら緊張していた。
「ほし君、もうすぐ出番だから、早くバックステージへ行って。」マネージャーは携帯を持ちながら急かし、彼の肩を叩いた。「頑張って、緊張しないで、普段通りでいいから。」
天野剛は頷き、突然、ランウェイで自信に満ちた天野奈々の姿を思い出した……
その後、彼は楽屋からバックステージへ向かった……
……
「今年の音楽界は新人が続々と登場しました。前にはK&Gという人気グループがあり、後には素晴らしい歌声を持つ注目の若手、鈴木ほしがいます。では、ステージを音楽を愛するこの若者、鈴木ほしに譲りましょう……」