この世界には、どうしても気に入られない人がいるものだ……
以前なら、あるいは他の人なら、墨野宙はそんなことは気にも留めなかっただろう。誰よりも、大衆全員を満足させることは不可能な任務だと分かっていたからだ。
お金でさえ、この世界には好まない人がいるかもしれない。
しかし、このような疑問が天野奈々に向けられると、墨野宙は心の底から妻を自慢したい衝動に駆られた。そのため、安藤皓司たちと相談した後、墨野宙は『バカ弟子』の上映前に『奇夫』の予告編を流すことにした。
『奇夫』の制作スケジュールによると、公開は来年の初めころになる予定だが、現在は作品全体が秘密状態だ。『バカ弟子』の盛り上がりに乗じて、この時期に『奇夫』の予告編を公開することは、第一波の宣伝活動となる。
そして……
「すごい!これ何の映画の予告?興奮して体が燃えそう!」
「災害映画!OMG!また海輝プロダクション製作……絶対見たい!」
「うわぁ、主演は北川東吾!私の東吾様が変態役、超刺激的!」
「ねぇ、気付いた?ヒロインって見覚えない?天野奈々じゃない?まじか。」
一夜にして、『奇夫』の話題性は、ゼロからネット上のトレンド上位10位に躍り出た。映画館で『奇夫』の予告編を撮影してネットに投稿する人も現れ、わずか35秒の予告編は、映画ファンの期待を最大限に煽った。クリアな予告編を見るために、多くのファンが『バカ弟子』のチケットを購入し、映画館で災害の雰囲気を体感しようとした……
予告編での天野奈々の嵐の中を駆け抜ける姿や、絶叫のような演技に、多くのファンが興奮を隠せなかった。
「北川東吾の映画は必見!あの変わり者は良い脚本しか選ばないし、天野奈々の演技も引けを取らない、楽しみ!」
「森口響のファンたちの顔が潰れたね。すごい、海輝のこの手は完璧……噂で反論するんじゃなくて、作品で黙らせる。天野奈々が主演できないって誰が言った?最高に気持ちいい、ハハ!」
「天野奈々は女優としての道をどんどん良い方向に進んでいるね。ちょっとした人気に甘んじて適当な作品を選ばないところが素晴らしい。」
「なるほど、天野奈々が数ヶ月も姿を見せなかったのは、撮影に没頭していたんだね。あの静かに実力を積み上げていく性格が好き、カッコいい!」
誰も予想していなかった、海輝がこんな切り札を隠し持っていたとは……