栗原暁は警戒心がなかったわけではないが、この期間、彼女は白川秋人のことで完全に神経を張り詰めていた。そのため、白川秋人の言葉のどれが真実で、どれが嘘なのか区別がつかなかった。彼は事件の後、ただこう言っただけだった。「あと数日すれば、事態は収まる。そうしたら、ヒロインは君だ」
事態がここまで来ると、栗原暁の心の中では、もはやヒロインになることへの思いはなくなっていた。ただ白川秋人の正体が暴かれることを恐れていた。
しかし白川秋人は何も彼女に話さず、ただ待つように言い、彼との関係を絶対に認めてはいけないと主張した。まさにこの真相を知らないがために、北川東吾に騙されると簡単に引っかかってしまうのだった。白川秋人が何を企んでいるのかも分からなかったからだ。
栗原暁は深夜に外出し、マネージャーも連れずに、一人で車を運転して白川秋人との待ち合わせ場所である地下のカフェに向かった。
しかし、到着してみると白川秋人は来ていなかった。最後に北川東吾からの電話を受けた。「マネージャーに見つかってしまった。今は動けない。先に帰っていてくれ。後で会おう」
栗原暁はその声を疑うことなく信じ、慌てて帰宅した。後ろに誰かが付いていることにも全く気付かなかった。
彼女があまりにも慌てていたから……
墨野宙に派遣された者たちは、皆信頼できる人物ばかりだった。すぐにそのカフェから多くの噂話を聞き出すことができた。それだけでなく、栗原暁と白川秋人のホテルの宿泊記録、そして周辺で二人の出入りを目撃したホテルスタッフが撮影した写真も入手した。
そのホテルは確かに人目につきにくく、秘密保持も徹底していたが、結局は金の力には勝てなかった。結局のところ、ホテルの責任者も誰が写真を流出させたのか分からないのだから。
同時に、陸野徹からも連絡が入った。また一度は犯人を取り逃がしたものの、重要な手がかりを掴んでおり、二日以内には必ず犯人を逮捕できるとのことだった。
証拠を手に入れ、天野奈々はかすかに安堵のため息をついた。冬島香も天野奈々を非常に尊敬したまなざしで見つめながら言った。「やっぱり奈々姉さんは賢いわ……」
「僕の演技の上手さには触れないの?」北川東吾は不満そうに冬島香の方を向いて軽くふんと鼻を鳴らした。