栗原暁は警戒心がなかったわけではないが、この期間、彼女は白川秋人のことで完全に神経を張り詰めていた。そのため、白川秋人の言葉のどれが真実で、どれが嘘なのか区別がつかなかった。彼は事件の後、ただこう言っただけだった。「あと数日すれば、事態は収まる。そうしたら、ヒロインは君だ」
事態がここまで来ると、栗原暁の心の中では、もはやヒロインになることへの思いはなくなっていた。ただ白川秋人の正体が暴かれることを恐れていた。
しかし白川秋人は何も彼女に話さず、ただ待つように言い、彼との関係を絶対に認めてはいけないと主張した。まさにこの真相を知らないがために、北川東吾に騙されると簡単に引っかかってしまうのだった。白川秋人が何を企んでいるのかも分からなかったからだ。
栗原暁は深夜に外出し、マネージャーも連れずに、一人で車を運転して白川秋人との待ち合わせ場所である地下のカフェに向かった。