いわゆる正面からの攻撃は避けやすいが、背後からの一撃は防ぎにくいものだ。
そして今この瞬間、天野奈々はようやく理解した。これまでの道のりで多くの災難に遭ったのは、このような競争環境に身を置き、このような立場にいるからこそであり、今日、彼女でなく他の誰かであっても、誰かの受賞の邪魔になれば、同じ結果になっただろう。
そう考えると、彼女の心は急に晴れやかになった。
背後で操っている人物は、確かに自分の所属する俳優の受賞に対して、必ず成し遂げるという決意を持っているのだろう。しかし、忘れないでほしい。今年の選考に天野奈々が参加しているのだ!
彼らは確かに手広く力を持っているが、それは墨野宙がこれまで日本アカデミー賞の選考に干渉しなかったからだ。今回、相手は知らずに天野奈々に手を出した。彼の妻に手を出したのだ。彼が相手を許すはずがあるだろうか?特に三回の警告で得点がリセットされるような状況で、彼が誰かに奈々の得点率を下げさせるのを許すだろうか?
絶対にありえない!
そして翌日、劇的な展開が皆の目の前で起こった。投票対象となった俳優全員に票の水増し疑惑が浮上したのだ。しかも以前にリセットされた二組の俳優たちよりもさらに傲慢で横暴な方法だった。これに対して、日本アカデミー賞主催者側は全ての投票をリセットしただけでなく、投票方式にも相応の調整を加えた。
一つのIDにつき一回しか投票できず、同一IPアドレスからの投票は無効票として扱われることになった。これにより、全員が公平なスタートラインに戻ることになった。
墨野宙と戦おうとする者は誰でも、自分に十分な実力があるかどうかを考えるべきだ。
さもなければ、自ら恥をかくだけだ!
夜、最終選考に入る前に、墨野様が天野奈々に電話をかけてきた。「おじいさんに頼みたいことは何もないのかい?」
「天命に任せます」奈々は微笑みながら答えた。「私はすべきこと、できることは全てやりました。もう後悔はありません」
「これぞ我が墨野家の気骨だ...」
墨野様がさらに奈々を褒めようとしたその時、奈々の手から携帯電話が墨野宙に奪われた。「じいさん、もう遅い時間だ。奈々は休まないといけない」
「この生意気な小僧め、お前の奥さんのために一肌脱いで、裏口から入れてやろうと思ったのに」