第606章 キスなんてしたことないくせに

「彼女は前に、あなたに何か嫌なことを言ったの?」墨野宙は天野奈々の瞳を見つめて尋ねた。

天野奈々は突然固まった。墨野宙がそこまで見抜いているとは思っていなかったからだ。

「私を傷つけるような言葉じゃないわ...」

「傷つくかどうかを決めるのは、君ではなく俺だ」墨野宙は断固として、支配的に言った。「君は俺の妻なんだ。だから俺が守る。たとえ母親であっても、君を傷つける理由にはならない。話してくれ、ん?」

天野奈々はそれを聞いて、墨野宙の手の甲に自分の手を重ねて、穏やかに微笑んだ。「大したことじゃないわ。ただの不愉快な言葉よ」

墨野宙はそれを聞くと、その瞳の奥が急に測り知れない深さを帯びた...

...

夜。

天野剛は見慣れない大きなベッドに横たわり、浴室から出てきたばかりの近藤青子を見つめていた。近藤青子は寝る前にスポーツウェアを着るのが好きで、体つきは完璧な誘惑とまではいかないものの、女性特有の体の香りを漂わせており、天野剛の心を揺さぶっていた。