第607話 妻は一人だけ、でも母はいなくてもいい

そのため、天野奈々が本当にオーディションの時間を知った時には、すでに申し込み期限が過ぎていた。

「オーディションの申し込み期限が過ぎたけど、返事がないわね?」中村さんは奈々からの連絡を待ちきれず、直接電話をかけてきた。

「時間?」奈々は困惑して聞き返した。「通知された時間を見ていないんですが?」

「確かにメッセージを送ったわよ」と言って、中村さんはメッセージのスクリーンショットを奈々に送った。「昨日、伝えたはずよ」

奈々が電話を受けている時、椛木千鶴はリビングでニュースを見ていた。しかし、奈々はふと、この件がそれほど単純ではないかもしれないと気づいた。

「もしかしてボスが反対なのかしら?まあ、理解できるわ。やっぱり健康が一番大切だし、これからもチャンスはたくさんあるでしょうし」