第519章 あかちゃんの代わりに承知します

「年末になると、様々な授賞式があるわね。今は人気があるけど、新人としての謙虚さと控えめな態度を保つべきよ」柴崎知子は天野剛が怠けたがっていると思い、諭すように言った。

天野剛は服を着ながら、柴崎知子の小言を聞いていた。心中穏やかではなかったが、彼女の誤解を解くつもりはなかった。

「もうすぐ奈々の映画が公開されるけど、ファンに映画のチケットを買ってあげて、応援しない？」

「お前の判断に任せる」天野剛は立ち上がってバスルームに向かった。柴崎知子の冷淡な態度に、胸が詰まる思いがした。

自分がまるで女のように、もてあそばれた後の憂鬱さを感じているのが、理解できなかった。

それに、この件は、このまま終わるのか？

「ほし、急いで。あと40分しかないわよ」

……

この数日。

災害映画『奇夫』の公開が迫っていた。天野奈々と北川東吾という二大主演のおかげで、この映画は公開前から話題を呼び、東京で非常に高い注目を集めていた。しかし、年末が近づき、お正月映画が多いため、『奇夫』が大ヒットするかどうかは運次第だった。なぜなら、日本アカデミー賞を狙って、多くの注目作品が続々と公開されるからだ。

さらに、最も不思議なのは、他の映画のクリエイターたちが懸命に宣伝活動をしているのに対し、『奇夫』の二大主演は、一人は姿を消し、もう一人は引退を表明し、監督も新人という状況だった！

彼らは本当にそれほどの自信があるのだろうか？

「社長、今回の日本アカデミー賞の選考は、そう簡単ではないと思います。奥様と新人賞を競う女優たちは、皆実力派ですが、もしかして……」

墨野宙は陸野徹の意図を理解した。日本アカデミー賞の審査員に早めに根回しをすべきかどうか尋ねているのだ。

「海輝がそんな汚い手段を使ったことがあるか？」墨野宙は陸野徹に直接反問した。「特に奈々のことだ。もし彼女が、自分の新人賞が海輝を通じて私の力で得られたものだと知ったら、どう思うだろう？それに、誰も日本アカデミー賞の選考に影響を与えることはできない。海輝でもだ」

「社長のご指摘ごもっともです。ただ、新人賞は一度きりのチャンスで……今年を逃したら、次はないんです。何か努力したいと思って！」

これは陸野徹の本音だった。彼の目には、この新人賞は天野奈々以外にありえなかった。