日本アカデミー賞を獲得するのは簡単ではない……
それは全ての俳優の最高の夢であり、競争相手は実力があるだけでなく、それぞれが多かれ少なかれ手腕と背景を持っている。不正はできないとしても、この賞のために奔走する人は少なくない。
それでも、墨野宙は今回の新人賞に対して、必ず獲得するという姿勢を崩さなかった。彼は天野奈々に多くのものを諦めさせてきた。世界の舞台、スーパーモデルとしての栄光、計り知れない価値、そして彼女の最初の夢も……
そう考えると、墨野宙の目に真剣な光が宿る。この世で、彼が百パーセントの努力を惜しまないのは、天野奈々だけだから。
……
日本アカデミー賞は三つの部分で構成されている。二十パーセントが視聴者投票、五十パーセントが専門審査員、そして三十パーセントが実績による評価だ。つまり、この勝負では、視聴者投票以外の二つの項目はほとんど操作の余地がない。日本アカデミー賞が長年にわたって大衆の信頼を得ているのは、その透明性があるからだ。
人為的に操作できる二十パーセントは最も比重が低く、実際には俳優の動員力を示すだけで、賞の選考にはほとんど影響を与えない。
「新人賞なんて目指さなくても、私たちの演技なら最優秀女優賞を直接狙えるわよ!」
リビングで、天野奈々は中村さんが俳優の資料を研究しているのを見て、思わず笑みを漏らした。「一度に大きなことはできないわ。それに、日本アカデミー賞で選ばれる人は本当に実力のある人たちよ。毎年、賞の選考で審査員同士が激しい議論になるって聞くわ。それだけ価値のある賞なのよ」
これが天野奈々が興奮している理由でもあった。結局のところ、自分の演技が専門家の目にどのように映るのか、確かめたかったのだ。
「今のあなたの人気といったら、数ヶ月も家に引きこもっていたのに、まだあちこちで話題になる体質だもの。投票の心配なんて要らないわ」
「みんな頑張ってくれればいいの」天野奈々は笑って答えた。結局、彼女が最も重視しているのは審査員の評価だった。
中村さんは少し黙った後、突然天野奈々のお腹に目を向け、指さして尋ねた。「社長はあなたの妊娠をいつ公表するつもりなの?」
「そんなに急ぐ必要があるかしら?」天野奈々はお腹に手を当てながら問い返した。「タイミングが来れば、自然と公表することになるわ」