第604章 必ずこの役を手に入れる

椛木千鶴は墨野宙の二人が去っていくのを見つめ、表情が険しくなった。墨野宙が天野奈々をこれほど可愛がっているとは思わなかったからだ。

「千鶴、あなたのこれからの日々は大変になりそうね」老教授は軽く鼻を鳴らした。普段から高慢な性格が染みついているため、墨野宙の言葉を本当には受け止めていなかった。「もし、きちんと教育しないと、この女性は将来、墨野家を滅ぼすかもしれないわ」

椛木千鶴は何も答えず、ただその瞳に、静かに冷たい光が宿った。

……

帰り道で、墨野宙は天野奈々を上から下まで見つめ、何か傷つけられていないか心配だった。これまで何度も天野奈々が危険な目に遭いかけたため、墨野宙にはトラウマが残っていた。

「大丈夫よ」天野奈々は墨野宙の手を握りながら言った。「何ともないわ」