第632章 腕は自分で傷つけた!

椛木千鶴はミロホテルでの取引を午後2時に予定していたが、興奮のあまり30分以上も早く到着していた。

ホテルの設備をチェックし、尾行や盗撮の形跡がないかを確認するためだったが、案の定、何も見つからなかった。

天野奈々を破滅させるためなら、椛木千鶴はどんな代償も厭わないようで、3000万円を使うことにも全く心が痛まなかった!

ホテルには天野奈々がモデル時代に撮影した広告がまだ掲示されていたが、椛木千鶴はそれを見て、軽蔑的な笑みを浮かべた。すぐに天野奈々が必死に築き上げたものすべてを一瞬で崩壊させられるからだ。

……

良い芝居になるはずだが、天野奈々は外出を控えていたため、自宅で椛木千鶴が得意げな表情から醜態をさらす様子を生中継で見ることにした。

「奈々さん、すべての準備が整いました」電話で山本修治が天野奈々に伝えた。「市内最大のスクリーンと接続済みで、いつでも生中継を開始できます」

「楽しみな見物になりそうね!」そう言って、天野奈々は電話を切り、台本をしまってリモコンを手に取った。

……

午後2時ちょうど、椛木千鶴と約束していた女性が姿を現した。全身を覆い隠すような変装をしていた。

椛木千鶴はそれを見て笑いながら言った。「そんなに緊張する必要はないわよ」

「海輝さんが証拠を調査し始めていて、うっかり話してしまった友人も今は海外に逃げてしまって、私も不安で何も手につかないんです」

「あなたが何を心配していようと、私が助けてあげられるわ」椛木千鶴はサングラスを外し、相手への敬意と誠意を示した。

「あなた...天野奈々さんの義理の母親じゃないですか?椛木千鶴さん?奈々さんの不倫の証拠を墨野社長に見せるつもりなんですか?」その女性は明らかに驚いて立ち上がった。「あなたが買い手だと知っていたら、絶対に来なかったです」

「まず座って、私の話を最後まで聞きなさい」椛木千鶴は相手を引っ張って座らせた。「正直に言うと、私も天野奈々が嫌いなの。だから墨野宙のところであなたのことを暴露したりしないわ」

「信じられません。何か証拠を残してくれない限り」そう言って、その女性は携帯を取り出し、録音ボタンを押した。「いくつか質問させていただけませんか?本当に答えていただけるなら、写真をお渡しします」