天野奈々は二日間も待てず、すぐに撮影クルーに休暇を申し出た。監督は天野奈々の状況を聞いた後、彼女の要請を承諾したが、彼女を送り出す際に、真剣な口調で言った:「奈々さん、子供が病気になるのはよくあることだし、墨野社長もいるんだから。でも、この作品であなたは主演女優だ。一日遅れるごとに、費用は驚くほどかかる。だから、今回は認めるけど、次はないからね。」
天野奈々は監督の立場を理解し、申し訳なさそうに頷いた:「全ての責任は私が負います。」
「いいよ、行きなさい。どうせもうすぐ日本アカデミー賞の授賞式だし、早めの休暇だと思えばいい。」天野奈々が責任を取る意思を示したので、監督も彼女に恩を売ることにした。確かに、天野奈々には正当な理由があったのだから。
天野奈々は夜のうちに帰宅し、玄関を入るなり真っ先に舞の様子を確認した。ベビーベッドで安らかに眠る姿を見て、やっと安堵のため息をついた。
墨野宙は物音を聞いて寝室から出てきて、寒気を帯びたまま赤ちゃんのベッドの前に立つ天野奈々を見つけ、急いできれいなバスタオルで彼女を包み込んだ:「言っただろう、心配する必要はないって。こんな風に帰ってきて、風邪でも引いたらどうするんだ?」
「心配するなって言われても、そう簡単にはいかないわ」天野奈々は自分の頬を押さえながら言った。そのとき初めて、両手が冷たくなっていることに気付いた。
「温かいお風呂に入りなさい」墨野宙は彼女を直接浴室に抱き入れ、温かい湯を張った。彼女が湯船に浸かったのを確認してから、『生存者』の監督に電話をかけた。
「墨野社長...天野奈々が帰る時に、すでに私に挨拶してましたよ。問題ありません。」
「日本アカデミー賞の後、彼女は定時に戻ります。そして彼女が撮影クルーを離れることで生じる全ての損失は、私が負担します」墨野宙は責任を持って相手に告げた。
「海輝が態度を示してくれれば、天野奈々が二日間いなくても問題ないでしょう。ご安心ください」監督は損得を理解していた。結局のところ、天野奈々が二日間いなくても、脇役のシーンも必ずしも撮り終えられるわけではない。しかし、それでも事前に難色を示す必要があった。さもなければ、天野奈々がこの撮影クルーには規律がないと思ってしまうだろう。