第797章 回りくどく言う必要はない？

天野奈々は加藤静流を連れて『生存者』の撮影現場に戻った。日本アカデミー賞の最優秀女優賞受賞を祝うため、制作チームは彼女のために祝賀会を開き、大きなケーキも用意した。これで『生存者』の宣伝は、女優の天野奈々から映画女王の天野奈々へと変わることになる。

「奈々、あなたの道のりはまだまだ長いわ。今は日本アカデミー賞を受賞したけど、人々の心を完全に掴むには、作品と時間の積み重ねが必要よ。」

「この業界は名誉と虚栄に満ちていて、妖怪変化が多すぎる。自分らしさを永遠に保つのは本当に難しいわ。」

天野奈々は黙って、撮影スタッフと一緒に食事と酒を楽しんだ。

最後に、監督は加藤静流の存在に気付いた。「この子は...」

「私の新しいアシスタントです。」天野奈々は言った。「よろしくお願いします。」

「君はね、とっくの昔からアシスタントが必要だったんだよ。」監督は席を立ちながら言った。「年を取って、もう若者たちのように騒げないよ。そうそう、明日新しい俳優が入るんだ。最初のシーンは君たちの対決シーンだよ。覚えてるかい？」

天野奈々は微笑みながら頷いた。

「早めに休んでね。」

天野奈々は受賞したことで、撮影現場での地位が徐々に上がっていった。スタッフは彼女を見かけると「奈々」と敬意を込めて呼ぶようになった。もちろん、この敬意は心からのものだった。

「ほとんどの仕事は私がやるけど、中には私一人では大変なことがあるの。」天野奈々は加藤静流に言った。

「分かりました。」加藤静流は頷いた。天野奈々は威張るのは好まないが、多くの事前準備をアシスタントに任せることで、かなりの時間を節約できる。

「スタッフに部屋を手配してもらったわ。私の隣よ。明朝7時から撮影があるから、起きるのを忘れないでね。」天野奈々は注意を与えた後、自分の部屋のドアを開けようとした。その時、廊下を走ってきた少女が、あやうく天野奈々にぶつかりそうになった。

「すみません、申し訳ありません、奈々さん。お会いできて本当に興奮してしまって、つい我を忘れてしまいました。どうか気にしないでください。私は新しく入った女優の近藤好子です。」

相手はやや痩せ気味で、まともに食事をしていないように見えた。しかし、温かい笑顔で、第一印象は悪くなかった。