天野奈々は気づいた。それほど暑くない天気なのに、墨野宙の体には薄い冷や汗が浮かんでいた。
彼が怖がっているからだ。
この男は人々の前に立つとき、どれほど堂々として冷酷無情で、誰をも恐れることがなかったのに、この瞬間、本当に怖がっていた。
「大丈夫よ、本当に大丈夫になったの」天野奈々は後悔する暇もなく、まずこの男を安心させようと必死だった。彼がこれほど心配するのを見るのが辛かった。
しかし墨野宙はずっと抱きしめたまま手を放そうとしなかった。長い時間が経ち、天野奈々の手が痺れてきてようやく、墨野宙は彼女を放した。
「加藤さんと近藤さんを見に行かなきゃ」
天野奈々は二人の怪我の程度を確認しようとしたが、墨野宙に止められた。「陸野が確認に行っている」
ただ今回は、近藤好子が相当な目に遭うことになるだろう……