第844話 私は会場内で天野奈々を見かけたの？

「当然です」これは天野奈々がその夜浅川司に言った最後の言葉で、その後、墨野宙に強引にハイアットレジデンスへ連れ戻された。

明日は星野晶の100人から64人に絞られる試合で、天野奈々という裏のボスも、派手に表舞台に出る予定だった。

トップ100以降の試合は新しい制度となり、出場者全員が統一された衣装を着用することになる。

今回の試合も5人一組で、得点の高い順に上位3名が直接進出、下位2名は直接脱落か保留となる。

残りの4枠は、同点が出た場合や審査員が迷うほど優秀な場合のために設けられており、保留となった者たちで二次選考が行われる。

今回のオーディションの歌手たちは、実力が比較的均衡しており、星野晶を除いて特に突出した存在はいなかった。

そのため、全員が敵対的な視線を星野晶に向けていた。特に彼女と同じグループの人々は。

実際には、彼女にはそんなものは必要なかったのに……

「なぜ試合にこだわるのかは分からないけど、もし私があなたの立場なら、本当の優勝を手に入れたいわ」

「確かに今は芸能事務所もあなたには才能があると言い、売れると言っているけど、結局トロフィーは取っていないでしょう。もしいつか人気が落ちたら、それが事務所があなたを切る理由になるかもしれない」

星野晶と同じグループの出場者の一人が、星野晶に笑いかけた。

これに星野晶は驚いた。こんなことが分かる人がいるとは思わなかった。

相手を見ると、小柄で澄んだ瞳をしていた。これは星野晶が教師としての人を見る経験から、一般的にこのように透き通った目を持つ人は、決して悪人ではないと。

「こんにちは、私のライバル。あなたの演技が楽しみです」

星野晶も笑顔で応じたが、他の人々からの嘲笑を受けた。

「あなたがそんなに賢いとは思わなかったわ。相手があなたに取り入ろうとしているのが分からないの？」

「でも、あなたには取り入るような関係もないでしょう。所詮は小さな事務所の出身だし……」

「そうよね……」

小さな事務所！

星野晶は心の中で笑った。もしこの人たちが、この小さな事務所の社長が誰か知ったら、発狂するんじゃないだろうか。

「今夜、観客席に特別なゲストが来るって聞いたわ」

「誰か知ってる？」

「それは分からないわ。さっき監督の休憩室の前を通りかかった時に、たまたま聞いただけよ」