第843章 天野奈々のやり方ではない

「今の星野晶の注目度があれば、海輝は優先的に採用できるはずだ」と山本修治は密かに墨野宙に提案した。「そうすれば、海輝の上層部も天野奈々を追い詰めることはなくなるだろう」

「まだその時ではない」墨野宙は山本修治に直接答えた。今、星野晶の注目度は十分だが、彼女はもっと上を目指せる。そして、天野奈々もスーパースターとしての第一歩を踏み出せる。今、外部の人々はスーパースターの存在を知らないのだから、こんなに早く星野晶を海輝と契約させる必要はない。

墨野宙のそのような態度を見て、山本修治は笑った。「天野奈々の野心は小さくないね。でも、芸能界で売れたくても売れない人はたくさんいる。彼女に全員を救えるのか?なぜ運に左右される芸能界をこんなに公平にしようとするんだ。嫌になるよ」

墨野宙は顔を上げ、彼を睨みつけた。「それはお前には関係ない...」

山本修治はつまらなさそうに肩をすくめた。

今、外部では星野晶の獲得競争が激しく、多くの有名な芸能事務所が星野晶にオファーを出し、非常に好条件を提示している。もし星野晶が誘惑に負けて、本当に他の事務所と契約してしまったら、天野奈々の努力は水の泡になってしまうのではないか?

山本修治の心配は理由のないものではない。今、木下さんの両親に密かに連絡を取っている人は大勢いるのだから。

そして星野晶はあんなに受け身な人なのだから...

墨野宙は帰宅後、山本修治の心配を妻に伝えた。「山本修治の言うことは理由がないわけではない。この件は、お前が注意して対処する必要がある」

天野奈々は微笑んで、息子を墨野宙の腕の中に置き、彼に向かって眉を上げた。「星野晶も浅川司も、よく分かっているわ。スーパースターを離れたら、彼らは何者でもなくなる。この世界で失敗者を助けたい人なんていないもの。私以外は」

「そんなに自信があるのか?」墨野宙は天野奈々の顎を掴み、彼女の瞳を見つめた。

その魅力を増していく瞳は、彼の生涯の愛と思いやりの対象だった。

「私の自信は全て、揺るぎない夫がいることから来ているの」天野奈々は非常に自信を持って答えた。「あなたは芸能界の帝王だから、私は間違いなく女王にならなければいけない。二人で、私たちが努力してきたこの王国を守るために」

「じゃあ、この二人の小さな者たちは?」