ジョナサンの唯一の希望は、墨野社長だった。
天野奈々のマネジメント契約は墨野宙の手中にあったため、彼は墨野宙に接触し、天野奈々を説得して『煉獄』のヒロインを演じてもらえないかと頼んだ。他の誰が演じても、制作を続ける意欲が湧かなかった。
「申し訳ありません、橋本監督。私もお断りせざるを得ません」墨野宙は丁寧に答えた。「妻が妊娠しているので、今は裏方の仕事なら余力がありますが、アクションシーンの撮影は無理です」
ジョナサンは一瞬驚いた。天野奈々がそんな理由で断っているとは思いもよらなかった。
「ああ、本当に残念だ」
ジョナサンは諦めきれない気持ちがあったが、墨野宙がここまで言うからには、選択の余地はなかった。
せめて、墨野宙が慰めてくれたことが救いだった。
「それならば、天野奈々さんの幸せを祈るしかありませんね」