第880話 やはり私と同じ道を歩む者だな

天野奈々がショッピングモールに現れた件は、すぐに東京中に広まった。観客の目には、これは本当に俳優を引き留めようとする誠意のある行動に映ったかもしれないが、業界関係者の目には、天野奈々の行動は分をわきまえないものと映った。

実際、ファンは薄情なものだ。これは全ての芸能人が常々口にする言葉だ。だから、業界関係者から見れば、天野奈々のこの行動は、演技が過ぎるように見えた。

しかし、この映画鑑賞を最後に、天野奈々は二度と大衆の目に触れることはなかった。他人が思うような、注目を集めようとする意図など全くなかったのだ。

「自分の出演した映画を見てどうだった？」スタジオで、ジョナサンは天野奈々に尋ねた。他の俳優のように、自分は天下無敵だと思っているのかを確かめたかったからだ。

「もう一度演じるなら、もっと上手くできると思います」天野奈々は腕を支えながら、ジョナサンに答えた。

ジョナサンはそれを聞いて笑った。「やはり私と同じ考えだな」同じように完璧を求める者同士だった。

「女優はもう決まった。この役があなたと縁がなかった以上、海外の女優を選んだよ」ジョナサンは資料を取り出し、天野奈々に渡した。「フランスの女優で、あらゆる面で条件は良い」

天野奈々は資料を受け取ったが、すぐには意見を述べなかった。「持ち帰って検討させてください」

「もちろん」ジョナサンは頷いた。

「もう一つ、あなたの意見を伺いたいことがあります」天野奈々は数秒間間を置いて、プログラマーのパソコンのモデルを見ながら、突然ジョナサンに言った。「映画のタイトルを変更したいと思います。『煉獄』は抽象的すぎて、魅力に欠けると思います」

「いいね、何に変えたい？」ジョナサンは天野奈々に尋ね返した。

「『アリの女王』です」

ジョナサンはそれを聞いて、すぐに家ほどの大きさのアリが頭上を通り過ぎる光景を想像した。そのシーンは間違いなくスリリングだろう。そこで頷いて「うん、『アリの女王』の方がSF大作っぽい感じがする。それに決めよう」

「良かった、ようやく物事が軌道に乗ってきた。この大作が2年後にスクリーンデビューできることを願っています」

2年……

……