第890章 時期を見つけて、物事を済ませよう

加藤静流は一眠りして目を覚ますと、すでに夜の10時半になっていた。目を開けると木下准が目に入り、一瞬驚いたものの、すぐに落ち着きを取り戻した。

「静流……」

「あなたが無事でよかった」加藤静流は少しかすれた声で木下准を見つめながら言った。「もう少し眠りたい」

木下准は静流の右手を握り、できるだけ優しい声で言った。「眠りなさい。私はここにいるから」

加藤静流は静かに目を閉じたが、すぐに急いで開いた。「これは夢じゃないよね?」

「もちろん夢じゃない」木下准は彼女の右手をしっかりと握りながら答えた。「私が悪かった。また約束を破ってしまって」

「そんな無駄な言葉はいいの。あなたには事情があったのは分かってる。両親に電話してあげて、心配してるから」そう言うと、加藤静流は今度こそ本当に目を閉じた。やっとゆっくり休めると思った。

木下准は静流をどう慰めればいいのか分からなかった。この瞬間、自分が少し不器用だということを知った。

静流が喜んでくれるかどうか分からないが、これをする必要があると感じた……

そこで、彼は静流を布団ごと抱き上げ、振り返ることなく病院の外へと向かった。

加藤静流は彼の行動に驚き、慌てて彼の首に腕を回して尋ねた。「何するの?」

「ある場所に連れて行きたい」そう言うと、木下准は静流を自分の車に乗せ、森の中へと進んでいった。すぐに二人の車は丘の上に到着した。そこは空に近い場所だった。

木下准は車の屋根を開け、静流を自分の腕の中に寄りかからせ、布団でしっかりと包んだ。

「ここは東京で一番星空が綺麗な場所なんだ」

加藤静流はそれを感じたが、さらに血が騒ぐのは、木下准の胸に寄りかかり、その逞しい胸板が背中に触れていることだった。彼の鼓動まで感じることができた。

「心配をかけてしまって」

「私も分からないけど、来てしまったの。それに、私は途中で投げ出すのが嫌いなの。ただ、体がこんなに弱いとは思わなかった」

木下准は何も言わず、ただ静流をとても強く抱きしめた。

30年以上、彼は恋愛をしたことがなかった。以前は学ぶ必要があると思っていたが、今静流を抱きしめていると、実は体の動きは全て感情に支配されていて、自分ではどうすることもできないことが分かった。

彼は静流を抱きしめたい、静流が好きだった。