神代咲が去っていくのを見て、加藤静流は木下准に向き直って尋ねた。「他に用事はありますか?私は仕事に戻らないと」
木下准は静流がまだ怒っていることを知っていたので、彼女を連れて向きを変えた。「送っていくよ」
「結構です……」静流の声には冷たさが滲んでいた。木下准が神代咲の気持ちを知らないはずがないのに、それでも彼女を側に置いているのは、一体どういうことなのか?
木下准は彼女の心に疑問が残っていることを知り、敢えて彼女の肩を抱いて外へ歩き出した。
他の戦友たちはこれを見て、複雑な気持ちになった。「実際、この件は奥さんが怒るのも無理はない。神代咲のやり方は、少し筋が通らないよ」
「恋愛は強制できないものだ。少将もこの数年、神代咲の気持ちを知っていながら、常に距離を保ってきた。これは少将が本当に彼女のことを好きではないという証拠だ」
「少将があんなに心配するなんて、きっと本気で好きになったんだろうな」
静流は後ろの数人の議論など気にもせず、ただ木下准が彼女の肩に置いた手を振り払おうとした。
「静流……」
「離して」
「私は神代咲に対して、常に距離を保ってきた。一歩も越えたことはないし、一片の希望も与えたことはない」木下准は説明した。「基地では、私はただの軍人だ。このような場所で、私情を語ることなど、あり得ないし、できない」
「私が好きなのは君だけだ。他には誰もいない」
「昨夜のことは、二度と起こらない。約束する」
この言葉を聞いて、静流は木下准の方を向いた。「何度も約束を破っているじゃない。何を信用すればいいの?」
「仕事上、国に対しては、私は軍人として、すべての命令に従わなければならない。それは仕方がない。でも個人の感情に関しては、絶対に君を裏切ることはない」木下准は静流に対して辛抱強く説明した。「君が不安を感じているのは分かっている。だから上司に申請した。私たちが結婚すれば、君は従軍できる」
「誰が従軍なんかするの?私にも自分の仕事があるわ」静流がこう言った時、明らかに怒りは半分に減っていた。
「行こう。仕事場まで送るよ」
実際、木下准が今日神代咲を呼んだのは、彼女の前ではっきりと説明したかったからだろう?これは木下准の感情面での潔さを示しているのだが、ただ、神代咲が引き続き木下准の側で働くことに我慢できなかった。