第893話 もう彼女が出る番ではない!

田村青流は夏目栞を特別に気遣い、後輩を全力で支援していましたが、この洪水災害で人気が急上昇したにもかかわらず、局長は当初の計画を変更しませんでした。

彼はやはり田村青流を交代させるつもりでした。

夏目栞は田村青流が去ることになるという知らせを全く知りませんでした。彼女は田村青流が非常に優れた司会者で、他人のことを真摯に考えてくれる人だと思っていただけでした。しかし、やっと師匠ができたと思ったのに、彼女を業界に導いてくれたこの人がすぐにテレビ局を去ることになるとは思いもよりませんでした。

「大冒険」が放送された夜、夏目栞はとても緊張していました。仕事上の悩みがあっても、バラエティ番組の経験がない天野奈々には相談できず、田村青流に相談しようと思いました。

しかし、テレビ局に着いたとき、田村青流は局長室にいると告げられました。しばらくして、田村青流が局長室から出てきましたが、彼と一緒に別の男性も出てきて、二人は何か話し合っているようでした。

田村青流の表情を見れば、二人が不愉快な別れ方をしたことは明らかでした。

夏目栞は急いで近寄り、尋ねました。「田村さん...何かあったんですか?」

「何でもないよ」田村青流は首を振り、夏目栞の追及を避けるため話題を変えました。「こんな遅くにテレビ局に来て、何かあったの?」

「今日『大冒険』の初回放送で、緊張して...」

「視聴者の反応が気になるんだね?」田村青流は元の落ち着いた様子に戻り、夏目栞をテレビのある事務室に連れて行きました。その部屋には他の同僚もいました。「これなら誤解されないし、将来の恋人探しの邪魔にもならないからね」

夏目栞は何も言えず、ただ田村青流の思いやりの深さを感じました。

「今の『大冒険』の実際のデータを見ると、かなり良好で、視聴率は問題ないはず...」

「あなたがいれば視聴率が低くなるはずがありません。私が知りたいのは、外部からの私への評価です」夏目栞は少し気にしながら笑って言いました。

「君は天野奈々の所属タレントの一人で、他の浅川司や星野晶も今人気者だから、後れを取りたくない気持ちはよく分かる。でも栞、君はもう十分頑張っているんだ。外部の評価にそんなに気を取られる必要はない。正しいやり方で進めば、結果は決して悪くならないよ」