有馬夏菜は不満を感じていた。以前は加藤静流を利用できず、今度は中村明音の息子まで失ってしまった。まるでスーパースターに関わることは全て、彼女には抵抗する余地がないかのようだった。
ようやくあの幼稚な男を追い払えたものの、中村明音に対抗するためでなければ、自分よりずっと年下の男なんか相手にするはずがなかった。毎日お金を使うばかりか、悪い癖も多く、世話をする気など全くなかった。ましてや、こんな大きなリスクを冒してまで。
「夏菜さん、かずきくんを追い払ってしまって、天野奈々は本当に写真をくれるんでしょうか?」
「他に何ができるというの?」有馬夏菜はワインを飲みながらマネージャーに問い返した。「今は私が完全に向こうの思い通りよ。どうしようもないわ。もう中村明音に対抗できる切り札は何もない。これからは、天野奈々に踏みにじられるのを待つだけね……」
マネージャーは有馬夏菜の落ち込んだ様子を見て、天野奈々は本当に手強いと感じた。静かに、着実に、相手の武器を奪い、追い詰めていく。
その能力は、本当に恐ろしかった。
「そういえば、夏菜さん、内密の情報によると、加藤静流がもうすぐ結婚するそうです。時期は近いようですが、参加されますか?」
「結婚?」加藤静流の結婚式の知らせを聞いて、有馬夏菜は冷笑を浮かべた。「実母がこんなに苦しんでいるのに、幸せになろうなんて夢見がちね。本当に馬鹿げている。」
「日本アカデミー賞で私を辱めたのだから、私も遠慮する必要はないでしょう?」有馬夏菜は手のワインを一気に飲み干した。「私の代わりに何か用意してちょうだい。実母として、ちょっとした気持ちを込めて"結婚祝い"を贈りましょう。どうやって幸せになるつもりか、見物ね。」
マネージャーは有馬夏菜を見て、密かにため息をついた。最近の夏菜は不運続きで、しかも実の娘を陥れようとしている。自分が娘を捨てた事実が暴かれることを恐れないのだろうか?
そう思いながらも、マネージャーは言われた通りに動いた。長年有馬夏菜の側にいたのだから仕方がない。
……
天野奈々の予想通り、有馬夏菜に捨てられた後、中村明音の息子は直接中村明音の住まいを訪ねた。しかし、上がることはできなかった。中村明音が警備員に、息子が来たら邪魔させないよう指示していたからだ。