第965章 あなたの男は、演技力が本物だ

佐藤社長の一件が発覚し、さらに墨野宙が芸能界での「配慮」を加えたことで、佐藤社長の立場は一気に窮地に追い込まれた。少なくとも、この業界の本質は損得を重視することであり、人々が災いを避けるのは当然のことだった。

そのため、佐藤社長は相当な損失を被った。

『義賊醫聖』までもが大きな影響を受け、もう一方の投資家は、一言の挨拶もなく撤退を決めた。

そして、これらすべては天野奈々のおかげだった。

佐藤社長は誰よりもよく分かっていた。ジョナサンの追悼会での出来事は天野奈々が仕組んだものであり、彼女に生涯で経験したことのない痛い目に遭わされたのだと。

そのため、佐藤社長は山奥に隠居している祖父を訪ねた。渡辺家は代々裏社会とのつながりがあり、老人が山奥に隠れているのは、敵の追跡を避けるためだった。

今回の山行きは、表向きは祖父の見舞いだったが、本当の目的は人を対処する方法について助言を得ることだった。

「その女の話を聞く限り、なかなかの度胸があるようだな。そうでなければ、お前がこうも手も足も出ないはずがない。」

「おじいさん、彼女は墨野宙の女だ。墨野宙がどんな人間か、あなたもご存知でしょう。手段が残虐で、冷酷無情な男だ。天野奈々は墨野宙の庇護があるからこそ、私に何度も潰されずに済んでいるんです。」佐藤社長はお茶を注ぎながら言った。「だから、あなたに知恵を借りたいと思ったんです。」

老人は佐藤社長を横目で見て、冷ややかに鼻を鳴らしたが、やはり孫を思う気持ちから言った。「その女は情に厚いようだな。情に厚い者には必ず弱点がある。それは身近な人間だ。彼女が手ごわい、墨野宙が手ごわい、なら他の者はどうだ?」

「まさか、天野奈々の周りの人間すら手を下せないのか?」

浅川司は『義賊醫聖』と直接的な関係があるため手を出せない。そうすれば明らかに自分の仕業だと分かってしまう。天野奈々の側近の中では、加藤静流が最も弱い環のように思えた。

加藤静流は久世家の令嬢とはいえ、まだ本家に認められておらず、しかも常に不在の軍人と結婚している。対処するのは比較的容易だろう。

「さすがおじいさんは一枚上手ですね。」

「今はまだ手を出さない方がいい。しばらく様子を見るんだ。今は風当たりが強い時期で、相手も警戒を強めているはずだ。今動けば、自ら罠に飛び込むようなものだ。」