第44章 もしこれが夢じゃなかったら

「近籐正明!」

小さな秘書が驚きの声を上げた。

近籐正明は人気スター、イケメンで演技も上手く、若くして映画賞を受賞し、投資家たちが争って投資する人物だった。

なぜ奥様と一緒にいるのだろう?

小さな秘書は自分の上司の表情を見る勇気がなかった。

以前は奥様と高橋坊ちゃんの仲が良かったのはまだしも、今度は人気俳優とも付き合うようになったのか。

「奥様は...」彼は唾を飲み込み、もごもごと言った。「すごいですね。」

このコネクション、この人脈、この手腕、彼は頭が下がった。

山本正博の眼差しは冷たく無感情で、瞳は測り知れない深い炭水のように、刃物を隠しているかのように人を震え上がらせた。

池村琴子と結婚して、彼女が良妻になったと思っていたが、今となっては、この妻には多くの秘密があるようだ。

まずは高橋謙一、そして近籐正明。

彼は彼女を見くびっていたようだ。

上司の周りの温度が急激に下がるのを感じ、小さな秘書は進退両難に陥った。

このまま車をここに停めておくべきか、地下駐車場に移動すべきか。

今となっては余計なことを言ってしまったことを後悔している。次に奥様が誰かと一緒にいるのを見かけても、見て見ぬふりをしよう。

彼が迷っている間に、山本正博は車のドアを開け、茶館へと向かった。

彼の姿勢は真っ直ぐで歩調も安定していた。あまりにも際立った容姿のため、通りすがりの人々は思わず何度も振り返って見ていた。

小さな秘書は近籐正明と池村琴子が楽しそうに話している様子を見て、上司のことが心配になった。

山本社長が怒りのあまり何かしでかさないといいが。

外にはまだたくさんのパパラッチが待機している。山本社長が冷静でいてくれることを願う。あまり醜い事態にならないように。

茶館の窓際で、近籐正明は流石スターだけあって。

美しい顔立ちは中性的で、雪のように白い肌、高くまっすぐな鼻、桜の花びらのように美しい唇、まるで漫画から飛び出してきた美少年のようだった。

池村琴子は彼を数回見つめ、人気俳優になる資質は十分あると認めざるを得なかった。結局のところ、組織にいた多くの男性の中で、彼が一番見た目が良かったのだから。