他人と比べれば勝算はあったが、相手は高木朝子、未来の山本さんであり、彼の憧れの人だった。
自ら恥をかくつもりはなかった。
しかし、高木朝子の自信満々な様子を見て、池村琴子は突然考えを変えた。
誰にでも枠を譲るつもりだったが、その相手が高木朝子なら、枠を奪い返さなければならない。
「もちろん、山本社長が私を参加させてくださるなら、それに越したことはありません」彼女の声は甘く柔らかく、少し引き延ばすような調子で、「このような大会に参加することは、私の夢でもあります」
彼女の茶色い瞳が微かに揺れ、山本正博の薄い唇が緩んだ。
本当に気にしていないと思っていたのに!
「ああ、参加枠は君に与えよう」
まさかこんなにあっさり承諾するとは。
池村琴子は思わず驚いた。
「正博兄さん……」高木朝子は不満げに口を尖らせ、何か言いかけた時、池村琴子の「はい」という一言が彼女の退路を全て断ち切った。