他人と比べれば勝算はあったが、相手は高木朝子、未来の山本さんであり、彼の憧れの人だった。
自ら恥をかくつもりはなかった。
しかし、高木朝子の自信満々な様子を見て、池村琴子は突然考えを変えた。
誰にでも枠を譲るつもりだったが、その相手が高木朝子なら、枠を奪い返さなければならない。
「もちろん、山本社長が私を参加させてくださるなら、それに越したことはありません」彼女の声は甘く柔らかく、少し引き延ばすような調子で、「このような大会に参加することは、私の夢でもあります」
彼女の茶色い瞳が微かに揺れ、山本正博の薄い唇が緩んだ。
本当に気にしていないと思っていたのに!
「ああ、参加枠は君に与えよう」
まさかこんなにあっさり承諾するとは。
池村琴子は思わず驚いた。
「正博兄さん……」高木朝子は不満げに口を尖らせ、何か言いかけた時、池村琴子の「はい」という一言が彼女の退路を全て断ち切った。
大勢の前で面目を失い、高木朝子の顔は猿のお尻のように真っ赤になった。
もう結婚も決まっているのに、なぜ正博兄さんは、こんな関係のない人に枠を与えるの?
池村琴子の携帯が振動し、メッセージを確認すると、高橋忠一からだった:今夜は家で食事をしよう、父さんが話があるそうだ。
池村琴子は少し考えて、「うん」と返信した。
山本正博は池村琴子が携帯を見て微笑むのを見て、眼差しが幾分暗くなった:「皆さんは先に行ってください。池村さんと話があります」
高木朝子以外の人々は素早く立ち去った。
高木朝子は憎々しげに池村琴子を見つめ、心の中は氷のように冷たくなった。
もし池村琴子が高橋仙だと判明したら、彼女と山本正博の婚約も危うくなる。
山本正博が参加枠を池村琴子に与えたことを思うと、高木朝子は怒りで目が眩むほどだった。
どうやら、切り札を使うしかないようね。
少し考えてから、携帯を取り出し、ある人物にメッセージを送った:彼を連れてきて。
……
山本グループ社長室で、池村琴子は優雅にソファに横たわり、今流行の5V5ゲームに興じていた。
山本正博も怒る様子もなく、パソコンを開いて何かを調べていた。
時間が一分一秒と過ぎ、一試合が終わると、彼女の感情も発散し終えていた。
彼女は山本正博を一瞥した。