箱の中身がとても気に入っていたものの、これで自分を買収しようとしても妥協するつもりはなかった。
山本正博は片目を細め、口角を上げて言った。「私をそんなに下劣な人間だと思っているのか?」
さあ、どうでしょうね?あなたが下劣な行為をするのは一度や二度ではありませんからね。
池村琴子は眉を上げて微笑んだ。
彼女の不信感に満ちた様子を見て、山本正博は心の中で怒りが込み上げてきた。
「高木朝子とは関係ない。ただ山本グループの面目を失わせたくないだけだ。」
池村琴子は彼の言葉の皮肉に気づかないふりをして、にこにこしながら箱を抱え上げた。「では遠慮なくいただきます。これ持って帰りますね、ありがとうございます山本社長。」
彼女は箱を抱えて笑顔で背を向けて去っていった。山本正博がまだ何か言おうとしたが、彼女の逃げる速さに言葉を発する機会すら与えられなかった。
山本正博のオフィスからこんな大きな箱を運び出したため、会社の他の社員たちは好奇心に満ちた視線を送っていた。
以前彼女が会社にいた時は、誰も彼女の身分に注目していなかったが、隠れ婚が暴露されてから、彼女は会社に来ることが少なくなった。理由は単純で、噂話に巻き込まれたくなかったからだ。
人目を引かないように、彼女はこっそりと裏口から出て、正面玄関まで回り込んだ。
山本グループの正面玄関にはロールスロイスファントムが停まっていた。山本グループの社員たちが上階から見下ろすと、池村琴子がその車に乗り込むのが見えた。誰かが驚いて叫んだ。「そのナンバープレート覚えてる、高橋家のだ!」
高橋家は裕福なため、ナンバープレートはすべて光町市の略字に「8」を加えたものだった。さらにこの高級車は光町市に1台しかなかったため、すぐに認識された。
「彼女がどうして高橋家の人々と繋がりを持つようになったの?」
山本グループで以前池村琴子と仲が悪かった同僚たちは、今では怯えていた。
元社長夫人というだけでも十分なのに、今では財閥の高橋家とも繋がりができたなんて!
こんなに大きなバックグラウンドを持つ人物に、復讐されるんじゃないだろうか?
彼らが恐れおののいている中、高木朝子は傍らに立ち、下の光景をはっきりと見ていた。