第60章 山本坊ちゃん、彼女を解放してあげて

「彼女の意思でもあり、私の意思でもある」

琴子の話によると、この3年間、山本正博は彼女に対して全く感情を注いでいなかったという。

琴子が彼の介入を許さなかったからこそ、彼女が独り寂しく過ごした最初の1年で、彼は彼女を連れて行くことができなかった。

結婚中に他の女を連れ込んでいた男なんて、ろくな奴じゃない。

近籐正明は退屈そうに机に寄りかかり、腕を組んで嘲笑うように言った。「山本坊ちゃん、彼女を解放してやれよ」

琴子の輝かしい青春はもう台無しにされた。これ以上間違いを続けてはいけない。

彼女を解放するのか、それとも彼らを解放するのか?

山本正博は指を握りしめ、目の奥に冷酷な光が宿った。

池村琴子は結婚中に他の男と付き合い、さらには離婚を迫りに来るなんて、自分を甘く見すぎているのではないか?

「彼女を解放しろって?じゃあ誰が私を解放してくれるんだ?」山本正博の眼差しは氷のように冷たかった。「結婚して3年、私は彼女を粗末に扱ったことはない。でも彼女は何度も私の限界に挑戦してきた」

まず薬を盛って、無理やり関係を持とうとした。

そして今度は、公然と不倫して、浮気された夫にされた。

これら全てに我慢してきたが、近籐正明が直接押しかけてくるのは許せない。

「私には日本の司法手続きに干渉できるほどの力はない」彼の薄い唇が冷ややかな線を描き、まつ毛から目尻にかけての長い流線は冷たく孤独で、全身から「近寄るな」というオーラを放っていた。

「あなたにその力がなくても、私にはある」近籐正明の唇が嘲笑うような弧を描いた。「山本坊ちゃんは何もしなくていい。ちょっと協力するだけでいい」

正確に言えば、邪魔をしないでくれということだ。

彼はドアの方へ歩き出し、突然足を止めた。「そうそう、あなたの愛人、高木朝子とかいう女」

「彼女に注意させた方がいい。池村琴子に汚い手を使うのは控えめにね。他の人は彼女を恐れているかもしれないが、私は怖くない」

高木家の横暴で闇の世界に関わっているという評判は広く知られていた。

なぜ恐れられているのか、命を失うことを恐れているからだ。

彼は何も恐れていない。

この命は琴子に救われたものだ。十数年余分に生きてきた。もう生死なんて眼中にない。

高木家が琴子に手を出そうものなら、その手を切り落としてやる。