第105章 外に男がいた

山本正博を見かけた池村琴子は眉をひそめ、胸が少し締め付けられた。

彼女は目を伏せ、漆黑の瞳で、自嘲的な笑みを浮かべた。

彼がいつから来ていて、どれだけ聞いていたのかわからない。

山本正博は無表情で近づいてきた。池村琴子はその場に立ち尽くし、一歩も動かなかった。

彼女の傍を通り過ぎる時、彼は一瞬足を止めたが、すぐにまた前へ歩き出した。

吉田蘭は山本宝子を彼の前に押し出した。「お父さんに抱っこしてもらいなさい。」

この慈愛に満ちた親子の光景をこれ以上見たくなかった池村琴子は、足の痛みも感じないまま、その場を離れた。

山本正博は立ったまま、池村琴子の去っていく後ろ姿を見つめていた。

吉田蘭は山本正博を一瞥し、淡々と言った。「もうこうなった以上、早く山本宝子の身分を回復させた方がいいわ。」

彼女は自分の息子を見つめ、目に罪悪感が浮かんだ。「私も琴子のことが好きだったけど、まさか他人の子を妊娠しているとは。あなたと彼女の縁が足りなかったということね。今や彼女は高橋家の人間で、家庭環境も複雑になった。宝子もいずれは本家に戻らなければならない。この件について手配してちょうだい。」

彼女は軽くため息をついた。池村琴子が他人の子を妊娠していたことは予想外だった。もともと高橋家に引き取られた時点で復縁の可能性は低かったが、今や他人の子を妊娠している以上、もう戻ってくることはないだろう。

彼女の言葉を聞いた山本正博の瞳は、不気味なほど深く、その思いは読み取れなかった。

翌朝早く、太陽が昇りかけた頃、南区のある路地で、安藤父さんは藤井家の玄関前で行ったり来たりしていた。

何度もベルを鳴らし続け、藤井安がようやくあくびをしながら出てきた。

「誰だよ、こんな非道なことして。朝早くから、人を寝かせてくれないのか!」藤井安は面倒くさそうにドアを開け、顔を曇らせた安藤父さんを見て、最初は後ずさりしたが、すぐに安藤静と離婚したことを思い出した。

離婚したんだ、もう元義父なんか怖くない。

「おや、安藤伯父さんじゃないか。何しに来たんだ?」藤井安は安藤静の父親を見て、丁寧さのかけらもない口調で言った。