できることなら、彼女は誰も選びたくなかった。
山本正博と結婚した時は彼女の一方的な想いだった。その後の結末は悲惨で、他人にもこの苦しみを味わわせたくなかった。
六郎とは長年の付き合いで、ずっと弟のように思っていて、それ以外の感情は一切なかった。
南條夜については……
彼に近づいたのは任務のためだけで、せいぜい友達程度だった。
彼女が困っている様子を見て、高橋忠一は軽く笑った。「妹の魅力が強すぎるんだな」
近籐正明という人物のことはよく知らないが、芸能人である彼が子供の父親として公表する意思があるということは、責任感のある人物だということだ。
南條夜にしても近籐正明にしても、二人とも条件は悪くない。これは彼らが高橋家の背景を狙っているわけではないということを示している。
「そんなに急いで決める必要はないよ」高橋忠一は彼女の眉間にしわが寄っているのを見て、優しく慰めた。
結婚は大事なことだから、確かに慎重に考える必要がある。
病院の山本正博の病室では、全ての記者がボディーガードによって外に追い出されていた。
あの二つの微博を見終わると、山本正博は冷笑いを浮かべながら携帯を脇に置いた。
「この高橋仙って魅力があるんだな……」鈴木哲寧はにやにやしながら言った。「でも今や全国民があなたが寝取られたことを知ることになったね」
あの二人の男が子供の父親だと認めたことで、池村琴子の不倫が事実として証明された。
この展開に彼は胸が高鳴った。
「高橋家の株価が下がっているらしいよ。高橋仙は高橋家の人間だから、今や彼女の評判が株価に大きな影響を与えている。高橋進はさぞかし悩んでいるだろうね。まさか大きな厄介者を引き取ることになるとは」
鈴木哲寧の他人の不幸を喜ぶような様子を見て、山本正博は目障りに感じた。
この誤解事件について、彼は少しも面白いとは思わず、むしろ非常に不快に感じ、声を抑えて注意した。「山本グループと高橋家も提携関係にある。高橋家の株価下落は山本グループにとっても良いことではない」
鈴木哲寧の言葉は途端に止まった。
山本グループと鈴木家は深い提携関係にある。山本グループに影響があれば、彼らにも影響が及ぶ。
「じゃあどうすればいい?」鈴木哲寧は頭を掻き始めた。「実は私にいい考えがある」
山本正博は目を上げて彼を見た。