第83章 私が連れて行く

彼の弟は、何もかも良いのだが、突発的な出来事に直面すると少し混乱してしまうところがある。

「敬一、事情がはっきりしないうちに、人を勝手に罪に問うのはよくない」

彼の言葉が終わると、高橋敬一は唇を引き締めたが、顔には明らかに不満が残っていた。

高橋進は険しい表情で横に立ち、何も言わなかった。

家の恥は外に出すべきではない。たとえ本当に仙の仕業だとしても、大勢の目の前で、他人に笑い者にされたくはなかった。

山本正博の眼差しは冷たく、瞳の奥に一筋の暗い影が過った。

彼は池村琴子が高橋家でうまくやっていけると思っていたが、今の状況を見る限り、そうではないようだった。

彼は池村琴子に近づき、彼女が俯いて額に汗を浮かべているのを見て、静かに言った。「一緒に行こう」

一緒に行こう……

その懐かしい声が、ついに池村琴子の理性を呼び覚ました。

彼女は歯を食いしばって目の前の人を一瞥し、瞳の光が突然ひび割れた。

彼女が立ち上がろうとすると、山本正博が手を貸した。

「ありがとう」池村琴子はすぐに支えていた手を離した。

手の感触が消え、山本正博の瞳の光は徐々に暗くなっていった。

池村琴子は高橋忠一の前に歩み寄り、高橋敬一には目もくれなかった。

「ここには監視カメラはありますか?」彼女は前回のプールにもカメラがあったことを覚えていた。

監視カメラと聞いて、高橋敬一も前回の件を思い出した。前回も彼女を冤罪に陥れていた。

しかし、三度目はない。前回は姉帰を叱り、二度とこのような過ちを犯さないと約束させた。それに、こんな高い場所で人を陥れようとして失敗すれば、自分の命を落とすことにもなりかねない。

「ある」高橋忠一は急いで監視カメラの映像を確認させたが、残念なことに、それは丁度死角だった。

高橋姉帰が上から転げ落ちる様子は映っているが、バルコニーの状況は映っていなかった。

一同は沈黙した。

救急車が到着し、高橋姉帰は運ばれ、高橋進も親族との再会の気分ではなくなった。

彼は池村琴子を一目見て、何か言いかけたが結局言葉を飲み込み、最後は高橋敬一と共に救急車に同乗して病院へ向かった。

高橋忠一は池村琴子に優しく言った。「安心して、必ず調査して説明するから。敬一に君を冤罪に陥れさせはしない」