高橋邸。
池村琴子が部屋に入るなり、高橋忠一は彼女に一通の書類を渡した。「前回のプロジェクトだけど、父さんはやっぱり君に任せたいそうだ」
重たい書類を見つめながら、琴子は複雑な思いに駆られた。
高橋進は以前の過ちを償おうとしているのだ。
「君がこういうのは好きじゃないのは分かってる。でも、君がやらないなら姉帰に任せるしかない」
高橋姉帰に任せるという言葉を聞いて、琴子はすぐに書類を受け取った。
高橋忠一は意味ありげに微笑んだ。
やはり、琴子は姉帰が嫌いだ。姉帰の名前を出せば効果があると分かっていた。
「父の同級生の岡田伯父は国家級建築プランナーで、今は光町市に戻って光町大学で講義をしているんだけど、興味ある?」
光町大学?
琴子は一瞬驚いた。それは彼女の母校だった。