火をそんなに怖がっているのに、見て見ぬふりができる。
離婚したのに、来なくてもよかったのに。
でも彼は駆けつけて、自分を救ってくれた。
倉庫の炎が天を焦がし、空を赤く染めていた。
芝生の上で、山本正博の瞳は清らかな泉のように、青空と白い雲を映していた。「深く考えないで。借りを返しただけだよ」
借りを返す……
その言葉に池村琴子は体が凍りつき、その場に立ち尽くした。
池村琴子は前回の山本家の火事を思い出した。あの時も彼を救うために飛び込んだのだ。
そうか、借りを返すためだったのか……
どんな気持ちなのか言い表せない。九死に一生を得て、期待することも、余計な考えを持つこともできなかった。
その後、秘書が来て、彼女たちを病院に連れて行った。
彼女が怪我をしたと知った高橋三兄弟は激怒した。
今回、高橋家の動きは早かった。腕時計の位置情報により、すぐに谷口たちを捕まえることができた。
警察の取り調べで、谷口はすぐに原蓮のことを白状した。
池村琴子を誘拐した犯人が原蓮だと知った時、高橋姉帰は車椅子から転げ落ちそうになるほど驚いた。
原蓮は、自分のことは話さないはずだ。
不安に駆られている時、看護師が入ってきた。
「高橋さん、高橋謙一様がお呼びです」
高橋姉帰は固まり、不安げに外へ向かった……
病室で、池村琴子はベッドに横たわり、山本正博は別のベッドで、手にギプスを巻いていた。
医師は池村琴子に注意を促していた。「赤ちゃんに大きな問題はありませんが、まだ三ヶ月も経っていない上、今日から出血が見られるので特に注意が必要です。ここでは点滴で胎児を保護する入院治療をお勧めします……」
医師が話し終えると、南條夜は優しくスープを一匙すくって池村琴子の前に差し出した。「はい、まずは何か食べましょう」
目を閉じて休んでいた山本正博は、この時イライラし始め、医師に向かって言った。「病室はいつ変えられますか?」
「申し訳ありません山本さん、現在病院の病室は満室です。個室が空き次第ご連絡させていただきます」
隣で仲睦まじく過ごす池村琴子と南條夜を見て、山本正博の表情は氷のように冷たくなった。
南條夜は彼を無視するかのように、忙しく立ち回り、優しく気配りをしていた。
山本正博は冷笑した。「南條さんがこんなに気が利くとは思いませんでした」