池村琴子は立ち止まり、自分を指差して言った。「私は結構です。私はあなたたちの誰でもないですから……」
高木朝子まで帰ってしまったのに、部外者の彼女がここで聞いているのは何の意味があるのだろう?
しかし山本正博は彼女の言葉を無視し、山本宝子を見て、隣の椅子を指差した。
宝子は椅子に上り、手を膝の上に置き、おどおどとした様子で大人しく座っていた。
池村琴子は軽く嘲笑した。
まさに天敵というものだ。
「君も座りなさい」山本正博は彼女を一瞥した。
池村琴子はベッドの端に腰掛け、「ご教示を拝聴」する準備をした。
山本正博は端正な眉目で、漆黒の瞳で宝子を見つめた。「宝子、私はお前のお父さんじゃない」
彼の口調は淡々としていたが、抑制と憂いが滲んでいた。
宝子は呆然とし、そして小さな口を歪め、泣きそうになった。