第121章 私はあなたのお父さんではない

池村琴子は立ち止まり、自分を指差して言った。「私は結構です。私はあなたたちの誰でもないですから……」

高木朝子まで帰ってしまったのに、部外者の彼女がここで聞いているのは何の意味があるのだろう?

しかし山本正博は彼女の言葉を無視し、山本宝子を見て、隣の椅子を指差した。

宝子は椅子に上り、手を膝の上に置き、おどおどとした様子で大人しく座っていた。

池村琴子は軽く嘲笑した。

まさに天敵というものだ。

「君も座りなさい」山本正博は彼女を一瞥した。

池村琴子はベッドの端に腰掛け、「ご教示を拝聴」する準備をした。

山本正博は端正な眉目で、漆黒の瞳で宝子を見つめた。「宝子、私はお前のお父さんじゃない」

彼の口調は淡々としていたが、抑制と憂いが滲んでいた。

宝子は呆然とし、そして小さな口を歪め、泣きそうになった。

彼が戸惑いながら指をいじっているのを見て、山本正博は水のような優しい目で、珍しく柔らかな口調で言った。「お前は山本家の子供だ。私のことは叔父さんと呼びなさい」

池村琴子は体が凍りつき、瞳孔が僅かに開いた。

彼女は宝子が山本正広の子供だとは思いもしなかった。

まさか、彼が自分を残したのはこのことを話すためだったのか?

彼女は山本正博を見た。ちょうどその時、山本正博も彼女を見ており、目が合った瞬間、その瞳に燃えるような熱い炎が宿っているのを感じ、居心地が悪くなって思わず目を逸らした。

「じゃあ、僕のパパはどこ?」宝子が尋ねた。

山本正博は抑えた声で低く答えた。「お前のお父さんは、とても遠いところに行ったんだ」

「死んじゃったの?」

山本正博は一瞬固まった。

宝子は真剣な表情で言った。「わかってるよ。大人が誰かがとても遠いところに行った、星になったって言うのは子供をだますためで、本当はみんな死んじゃって、もう二度と会えないんでしょ」

五歳の子供がすでに生死についてこれほど深い理解を持っているのを見て、山本正博はもちろん、池村琴子の胸も痛んだ。

いわゆる物分かりの良さとは、多くの場合強いられたものだ。現実に直面し、成長を余儀なくされるから。

話しているうちに、宝子の目から豆粒ほどの大きな涙が落ちた。

理解することと受け入れることは別物だ。

彼はパパが誰なのか知らなかったが、パパがもう死んでしまったことは分かった。