鈴木哲寧は別のバイクに跨り、苦々しく後を追った。
二人は高橋邸の門前まで飛ばして、やっと止まった。
「なんでここに来たんだ?」鈴木哲寧は親友を見つめた。
「高橋忠一に池村琴子のことを頼んでおいたんだ」
鈴木哲寧:「!!」
ヤキモチを焼いて妻を追いかける男は見たことがあるが、好きな人を他人に押しつける男は初めて見た。
この数日様子がおかしかったわけだ。眠らず、毎日運動とアルコールで自分を麻痺させていた。
「後悔してるのか?」鈴木哲寧は意味深な笑みを浮かべた。
山本正博はヘルメットを脱ぎ、目を伏せた。
鈴木哲寧は腕を組み、諦めたようにバイクに寄りかかった。「お前は俺と同じだな。自分の冷酷さを過信して、好きな人を突き放せば未練も断ち切れると思ったんだろう。結局、苦しむのは自分だけだ」
山本正博は薄い唇を固く結び、近寄りがたい冷たい雰囲気を漂わせていた。
「彼女は俺のことを好きじゃない。無理に引き止めても意味がない」
「誰が好きじゃないって言った」鈴木哲寧は嘲笑った。「好きじゃない女が三年も独り身で待つか?女が男の傍にこれだけ長くいるのは、金か愛しかない」
金なら、池村琴子は身一つで離婚を望んだ。
愛なら……
山本正博は眉をひそめ、突然二人が無理やり関係を持った時のことを思い出した。
「もし関係を持った後、一方が突然別れを切り出したら……」
「それは相手の体目当てだったってことだ!」鈴木哲寧は義憤に駆られた。「最低だな、食い逃げかよ。無責任な行為だ」
そう言って、何かを思い出したように山本正博を見た。「まさか……」
山本正博が何か言おうとした時、鈴木哲寧は怒鳴った。「くそっ、だから離婚されたのか。食い逃げして追い出したのか?」
山本正博:「……」
「だから振り向きもせずに去っていったんだ。当然だ!」
何が食い逃げだ、離婚を切り出したのは彼女の方だ!
しかしこんな時に説明すれば余計こじれるだけだ。山本正博は顔を曇らせ、黙り込んだ。
鈴木哲寧は白眼を向け、彼の本心を見抜いた。「今のお前は明らかに他人に渡したくないんだろう。忠告しておく……」
彼は肩を叩き、重々しく言った。「今追いかければまだ間に合う。他人と結婚して子供を産むまで待って後悔するな。そうなったら一生後悔して苦しむことになる」