第76章 他人を助けて身内を陥れる

鈴木哲寧は別のバイクに跨り、苦々しく後を追った。

二人は高橋邸の門前まで飛ばして、やっと止まった。

「なんでここに来たんだ?」鈴木哲寧は親友を見つめた。

「高橋忠一に池村琴子のことを頼んでおいたんだ」

鈴木哲寧:「!!」

ヤキモチを焼いて妻を追いかける男は見たことがあるが、好きな人を他人に押しつける男は初めて見た。

この数日様子がおかしかったわけだ。眠らず、毎日運動とアルコールで自分を麻痺させていた。

「後悔してるのか?」鈴木哲寧は意味深な笑みを浮かべた。

山本正博はヘルメットを脱ぎ、目を伏せた。

鈴木哲寧は腕を組み、諦めたようにバイクに寄りかかった。「お前は俺と同じだな。自分の冷酷さを過信して、好きな人を突き放せば未練も断ち切れると思ったんだろう。結局、苦しむのは自分だけだ」

山本正博は薄い唇を固く結び、近寄りがたい冷たい雰囲気を漂わせていた。

「彼女は俺のことを好きじゃない。無理に引き止めても意味がない」

「誰が好きじゃないって言った」鈴木哲寧は嘲笑った。「好きじゃない女が三年も独り身で待つか?女が男の傍にこれだけ長くいるのは、金か愛しかない」

金なら、池村琴子は身一つで離婚を望んだ。

愛なら……

山本正博は眉をひそめ、突然二人が無理やり関係を持った時のことを思い出した。

「もし関係を持った後、一方が突然別れを切り出したら……」

「それは相手の体目当てだったってことだ!」鈴木哲寧は義憤に駆られた。「最低だな、食い逃げかよ。無責任な行為だ」

そう言って、何かを思い出したように山本正博を見た。「まさか……」

山本正博が何か言おうとした時、鈴木哲寧は怒鳴った。「くそっ、だから離婚されたのか。食い逃げして追い出したのか?」

山本正博:「……」

「だから振り向きもせずに去っていったんだ。当然だ!」

何が食い逃げだ、離婚を切り出したのは彼女の方だ!

しかしこんな時に説明すれば余計こじれるだけだ。山本正博は顔を曇らせ、黙り込んだ。

鈴木哲寧は白眼を向け、彼の本心を見抜いた。「今のお前は明らかに他人に渡したくないんだろう。忠告しておく……」

彼は肩を叩き、重々しく言った。「今追いかければまだ間に合う。他人と結婚して子供を産むまで待って後悔するな。そうなったら一生後悔して苦しむことになる」