第71章 知らない人は彼女が高橋家の親戚だと思うだろう

部屋の中で、高橋進は椅子に座り、眉間に不安の色を浮かべていたが、彼女が入ってくると、目を上げ、鋭い光を放った。

高木朝子は胸が高鳴り、手に持った契約書を差し出した。「高橋伯父、これが私が作成した契約書です。」

高橋進は何も言わなかった。

彼女は不安げに契約書を机の上に置いた。

数十秒の沈黙が流れ、高木朝子が足の指で床を引っ掻くほど居心地が悪くなった頃、高橋進はようやく顔を上げて彼女を見た。

「朝子、君と高橋は子供の頃からの知り合いだよね?」

高木朝子は少し戸惑い、そして頷いた。「私と彼は子供の頃からよく口喧嘩をしていて、みんなに相思相愛の仲だと言われていました。」

彼女は明るく笑い、幼く純真な表情は無邪気で無害に見えた。

このような人物があんな事をするとは信じがたかった。

高橋進の心の中には疑いがあり、熟考していた。

高木朝子の心臓は激しく鼓動し、手のひらは冷や汗で濡れていた。

高橋進は仕事の話をせず、最初から彼女と高橋謙一の関係について尋ねた。

後ろめたい事をすれば、影におびえるものだ。この件について考えるだけで、彼女は眠れなくなっていた。

彼女はすでに運転手の口を封じさせており、高橋姉帰以外には、彼女が黒幕だと知る者はいないはずだった。

そう考えると、緊張していた心が少し緩んだ。

彼女は意を決して言った。「高橋伯父、姉帰さんは私たちとの協力を承諾したとおっしゃっていましたが、契約書にはあまり興味がないようですね。」

「私の何かが気に入らないのでしょうか?」

彼女が入室してからしばらく経つのに、高橋進は契約書について一言も触れず、それが彼女をますます不安にさせた。

「高橋伯父、もしかして協力する意思がないのでしょうか...姉帰さんは私を騙していたのですか?」

高橋姉帰の名前を出すと、高橋進の表情に変化が現れた。

高木朝子は機を見て、契約書を彼の前に押し出した。

高橋進は躊躇した後、ついにペンを取った...

...

高橋ビルの下で、池村琴子は突然あることを思い出した。

高橋進が愚かにも高木朝子にこの録音を知らせるはずがない。

近籐正明によると、その人物は明日自首するという。もし高木朝子がその人物が死んでいないことを知れば、きっと何かしらの妨害工作をするだろう。