第173章 思い上がり

「責任を取る？何の責任を？」

池村琴子は息を飲み、笑って誤魔化した。「もういいでしょう、私たちは離婚したんだから……」

「子供には父親が必要だ」山本正博は衝撃的な言葉を放った。

池村琴子の胸が大きく跳ね、唇が硬くなった。「何ですって？」

彼女の驚いた様子は、まるで驚いた子ウサギのようで、子鹿のように純粋な瞳は恐怖に満ちていた。必死に目を逸らし、何か後ろめたいことでもあるかのようだった。

こんな彼女の姿は珍しかった。

山本正博は低く笑い、急に意地悪な気分になった。「表向きの意味だよ」

もしかして彼は知っているの？

池村琴子の表情が凍りついた。その一瞬、頭の中には多くの拒否の言葉が響いた。

そのとき、山本正博は続けた。「こんなに多くの人が子供の父親になりたがっているんだ。私が一人増えたところで大したことじゃないだろう？」

彼は一瞬言葉を切り、唇の端に嘲笑を浮かべた。「これで君の言う責任のある男になれるかな？」

この皮肉な言葉を聞いて、池村琴子は怒るどころか、むしろ安堵のため息をついた。

良かった。子供を奪おうとしないなら、何でもいい。

「さっきは間違えました。あなたは十分責任感がありますよ」池村琴子の唇に笑みが広がり、真っ赤な唇が艶やかに輝いた。「他の人に対して責任を持ってくれればいいんです。私たちはもう過去の話です。それに、子供には今後父親はいません」

父親はいないという言葉を聞いて、山本正博の心臓が針で刺されたように痛んだ。

池村琴子は派手に笑っていたが、その目には少しの笑みも宿っておらず、全身が拒絶を表していた。

父親がいない？なぜ父親がいないんだ？

もしかしてその男は近籐正明でも南條夜でもない？

母の急な態度の変化と、先ほどの彼女の動揺を思い出すと、ある答えが浮かび上がってきた。

「子供は俺の子だ」疑問文ではなく、断定だった。

山本正博の目の奥に不気味な波が渦巻き、声は震え、目は恐ろしいほど輝いていた。

子供は自分の子だ。もし自分の子でなければ、母が彼女に財産を全て渡すはずがない。

緊張と興奮が一瞬で胸いっぱいに広がり、山本正博の唇が歪み、笑みが唇の端で思いのままに咲いた。

「俺の子か……良かった」

「違います」池村琴子は彼の妄想を遮った。「あなたの子じゃありません」