池村琴子が高橋邸を出たところで、高橋忠一からメッセージが届いた。横山紫が頼み込んで、高橋姉帰は光町に残ることになったという。
池村琴子は意味ありげに微笑んだ。
横山紫が組織の名を借りたのだから、高橋進が折れたのも当然だった。
「琴子……」
門の前に、完全武装した近籐正明が立っていた。
彼はロングウィッグを付け、ユニセックスな長いコートを着て、サングラスとマスクをしていた。遠くから見ると本当に綺麗な女性に見えた。
池村琴子は思わず笑みを漏らした。芸能人も大変だな。
近籐正明は急いで彼女の側に来て、彼女を脇に引っ張った。「誰かがあなたを調べています」
「誰が?」
「名前は分かりませんが、第四班から情報が来ました。誰かがお金を出してあなたの身元を調べているそうです」
お金を出して彼女の身元を?まさか「W」組織の中で彼女の身元を調べる人がいるとは。
池村琴子は唇の端を少し上げ、目には笑みが届かなかった。「じゃあ、逆に調べましょう。誰が私を調べているのか」
その時、近籐正明の携帯が鳴った。彼は画面を見て、冷笑した。「四郎が分かったよ。横山紫だ」
横山紫?
これは本当に因縁めいた巡り合わせだ。
「彼女は私の何を調べたいの?」池村琴子は可笑しくなった。彼女がまだ横山紫のことを調べ始めていないのに、横山紫が先に彼女を調べ始めていた。
彼女は本当に気になった。この横山紫は一体何を知りたがっているのか。
「彼女はあなたの身分を疑っています。それと、お腹の子供が山本正博のものかどうかも」
山本正博の名前を出すと、近籐正明の目つきが冷たくなった。
横山紫と山本正博の関係を思い出し、池村琴子は指を強く握りしめたが、何でもないかのように言った。「じゃあ、彼女にいい知らせをあげましょう」
「調査班に伝えて。子供は山本正博のものではないと」
「四郎によると、横山紫は第四班の下部組織の小グループリーダーで、表の身分は吉田蘭の遠い親戚だそうです。彼女と高橋姉帰の繋がりのことは組織は知りません。警告するか除名しますか?」
組織から除名されるということは、組織のブラックリストに載るということで、人生が終わったも同然だ。
「必要ありません」池村琴子は首を振った。「彼女を除名するのは最善ですが、私の身分も露見してしまいます」